- ゲノムとは何だろう
「遺伝子」が、個々の表現形質に対応する原因となる因子を表わすのに対して「ゲノム」という概念は、ある生物種の個体全体を完全な状態に保つために必要な遺伝的情報の1セットとして考えられたものです。したがって、ヒトならヒト、ネコならネコといったように、生物種ごとに固有のゲノムが存在します。ウイルスや細菌についてもファージゲノムや細菌ゲノムとよび、細胞小器官でも自分自身のDNAをもつミトコンドリアや葉緑体については、ミトコンドリアゲノム、葉緑体ゲノムという呼び方をすることがあります。遺伝情報そのものはDNAの塩基配列として保存されています。ゲノムの実体は細胞核のDNAであるといってもいいでしょう。ゲノムDNAの大きさは生物種ごとにずいぶん違います。仮に大腸菌ゲノムの大きさをJR山手線一周の長さとすると、ヒトゲノムの全長はほぼ地球の半周に相当するほどになります。
藤山 秋佐夫
- ゲノムを調べる!
以前は、一部のウイルスや細胞内器官のゲノムについてしか全構造がわかっていませんでした。それでもそこから得られた情報 により、たとえばウイルスのライフサイクルや感染と増殖の機構などについて、ずいぶんたくさんのことがわかったのです。今後、もっと高等で複雑な体制をもつ生物のゲノムの全構造が決められ、 その中に含まれるすべての遺伝子と遺伝子産物に関する情報があらゆる生物種について次々と明らかにされる事が予想されます。まずゲノム全体を対象に全遺伝情報を調べあげ、そこから個別的な研究を始めるというアプローチです。このような研究を「ゲノム生物学」ともよぶようになりました。
私たちがゲノム情報を読みとる能力が向上すれば、ゲノムDNAの複製や分配といったゲノム全体を調和よく維持するための機構や、遺伝子の発現調節 の機構などに関する、より詳細な情報が得られるはずです。また、さまざまな生命現象のうちで、何が、どの程度までゲノムに書き込まれた情報に依存しているか、ということも格段にはっきりとしてくるでしょう。ある問題がゲノムの情報だけでは解決できないということが明らかになれば、逆に、そのような視点に立った新しい生命科学の研究の方法論 が生み出されてくるにちがいありません。あらかじめ、ゲノムの全構造がわかり、全遺伝情報を理解したうえで出発する研究は、必然的に遺伝子間、遺伝子産物間、細胞間…の相互作用ネットワークの解析へと展開することが予想されます。藤山 秋佐夫
- 全ゲノム配列が発表・公開された生物
全ゲノム配列が発表・公開された生物(from KEGG|NCBI)
更新日:2008年5月17日ゲノムのほぼ全体が解読された生物(GIB、NCBIより)
真正細菌(Eubacteria) 654(大腸菌、枯草菌、ラン藻菌、ピロリ菌、結核菌、コレラ菌、ブフネラなど) 古細菌(Archaea) 51(Halobacterium, Thermoplasma, Pyrococcusなど) 真核生物(Eukaryotes) 175 原生生物(Protists) 37(トリパノソーマ、トリコモナス、マラリア原虫など) 植物(Plants) 13(シロイヌナズナ、ジャポニカイネ、インディカイネ、ポプラ、ブドウなど) 真菌(Fungi) 92(出芽酵母、分裂酵母、カンジダ菌など) 動物(Animals) 33(下の表を参照) ゲノム配列がほぼ決定された動物(Ensembl, NCBIより)33種
哺乳類10種
- ヒト(human;Homo sapiens)
- チンパンジー(chimpanzee;Pan troglodytes)
- オランウータン(orangutan;Pongo pygmaeus)
- アカゲザル(rhesus macaque;Macaca mulatta)
- マウス(mouse;Mus musculus)
- ラット(rat;Rattus norvegicus)
- イヌ(dog;Canis familiaris)
- ウシ(cow;Bos taurus)
- オポッサム(oppossum;Monodelphis domestica)
- カモノハシ(platypus;Ornithorhynchus anatinus)
他の脊索動物6種
- ニワトリ(chicken;Gallus gallus)
- メダカ(medaka;Oryzias latipes)
- ミドリフグ(tetraodon;Tetraodon nigroviridis)
- トラフグ(fugu;Takifugu rubripes)
- カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)
- ユウレイボヤ(Ciona savignyi)
昆虫15種
- ショウジョウバエ(fruitfly;Drosophila)12種
- D. melanogaster
- D. pseudoobscura
- D. yakuba
- D. sechellia
- D. simulans
- D. erecta
- D. ananassae
- D. persimilis
- D. willistoni
- D. mojavensis
- D. virilis
- D. grimshawi
- ハマダラカ(Anopheles gambiae)
- ネッタイシマカ(Aedes aegypti)
- ミツバチ(honey bee;Apis mellifera)
他の動物2種
- ムラサキウニ(sea urchin:Strongylocentrotus purpuratus)
- エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)
表作成:斎藤成也