色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション |
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2.6 色の定量的表現法と色盲での色の見え方 ここまで各種の色盲における色の見え方について説明してきた。これらの特性は定量的にはどのように考えることができるのだろうか?色覚バリアフリーを実践するためには色の表現法や指定法への理解が欠かせない。そこでこの節では本論から少し離れるが、色表現の方法とその中で色盲がどのように捉えられるのかについて、なるべく生物学者になじみの深い方向から説明を試みたい*19。 パソコンで画像を作ることが多い我々にとって、色を数値で表わすのに最もなじみの深い方法は赤 (Red、R)、緑 (Green、G)、青 (Blue、B) の 3原色の混合比率を R、G、B の 3つの数値で表わす方法であろう (図15A)。これはテレビモニターの各画素のように自ら発光する光を重ね合わせて色を作るやりかた (加色法) である。数値は 0 〜 100%の割合で示したり、0 〜 255 の 8 ビットの数や 00 〜FF の 16進数で表わしたりする。R、G、B = 0、0、0% が黒で、100、100、100% が白となる。 RGB値は 3色の光を合成した場合の色であるので、絵具を混ぜ合わせた色 (次節参照) とは混同しないように注意しないとならない。RGB 表現で緑に赤を足すという場合、G の値をそのままにして R の値を増やすことを意味するが、これは緑の絵具に赤の絵具を混ぜるのとはまったく異なる結果になる*20。 RGB の値は、テレビモニターの 3色の蛍光体の輝度に変換され、加算されて眼に届く。蛍光体が出す光の極大波長 (液晶モニターの場合は画素ごとの色フィルターの極大透過波長) は、赤が約 610nm、緑が約 550nm、青が約 470nm 付近だが、メーカーによって多少異なる*21。また人間の眼は明るさを指数関数的に感じるので、RGB の値をそのまま正比例して画面の輝度に変換すると、中間調が明るくなりすぎて不自然に感じてしまう。そこでモニターは中間調をわざと暗めに表示しているが、その度合いはシステムによって異なる*22。また RGB 各 100%の白をどのような色あいの白で表現するかも、様々な設定がある*23。微妙なアナログ機器であるテレビや液晶モニターは、経年変化による色変化も大きい。 このように RGB 値によって指定した色は、実際の画面でどのような色に表示されるかが機械ごとに大きく異なってしまう。このような指定法を機種依存
(device dependent) な色表現と言う。このため RGB 値による色表現は色の傾向を一般的に把握するのにはよいが、厳密な色指定や色の議論には適していない。 B:CMYK値による色表現 絵具や印刷インクを重ね合わせて色を作る場合、それぞれの色は入射光を吸収して、残った光だけが反射され、その色が眼に届くことになる。複数のインクを混ぜ合わせれば、吸収される光成分がそれだけ増え、眼に届く光はそれだけ減ることになる。このような色の重ね合わせを減色法と呼ぶ。 減色法で様々な色を再現するには、シアン (明るい青色、Cyan、C)、マゼンタ (赤紫、Magenta、M)、イエロー (黄色Yellow、Y) を 3原色に用いるのが一般的である (図15B)。CMY をすべて重ね合わせると黒になるはずだが、インクの色純度の限界から実際には完全な黒にならない。そこで実用上は、黒インク (Black、B と混乱しないように末尾を取って K と略す) を加えた CMYK の 4色で色を表現する。 CMYK の値は、印刷機で 4色のインクをそれぞれどの程度の濃さで刷るかを示した数字そのものである。したがってインクの色あいや用紙、印刷機の違いによって印刷される色は微妙に異なり、RGB と同様 CMYK 値から実際の色が厳密に決まるわけではない。ただしモニターの調整が各個人によって非常にまちまちなのに対し、印刷ではどの CMYK 値がどのような色になるかを示した色見本帳を大手インク会社が作成・配布しており、印刷所はこれに対応して色の仕上がりを調整している*24。したがって RGB に比べると CMYK のほうが、機種による色の差ははるかに小さい*25。 2.2節 G で示したように、同じ色名で表わされる色でも色盲の人にわかりやすい色あいとわかりにくい色あいがある。微妙な色あいの指定を印刷会社に伝えるには、CMYK 値による指定が最も実用的かつ確実である*26。
ここまであえて厳密な区別をしないできたが、眼に入る色には 2つの種類がある。1つは光源から直接眼に入る光で、光源色 (light source color) と呼ぶ (図16A)。もう 1つは光源から物体に反射して眼に入る光で、物体色 (object color) と呼ぶ (図16B)。光源色は、レーザーや水銀ランプの輝線、蛍光色素のように単一の波長から成る場合もあれ、テレビモニターの画面のようにいくつかの波長の光が足し合わされている場合や、太陽や白熱電球のように連続したスペクトルの場合もある。物体色はほとんどの場合、連続したスペクトルである。図15C、D のように、まったく異なったスペクトル分布であっても、人間の眼には同じ色として感じられる*27。 一方人間が色を感じる感じ方には、2つの状況がある。1つは色を、肌理、皺、艶などとともに物体の表面の質感として感じているときの状況で、これを表面色 (surface color) と呼ぶ。「物体色モード」と呼ぶこともできる (図16D、E)。もう 1つは色を物体の属性から切り離し、光そのものの色として感じているときの状況である。たとえば黒い紙で視野を覆い、そのまん中にあけた穴から光が差し込んでくるような状況である (図16C、F)。このときに感じる色を開口色 (aperture color) と呼ぶ。「光源色モード」と呼ぶこともできる。 同じ色でも光源色モードで感じる場合と物体色モードで感じる場合では、人間の眼には大きく異なって見えることがある。たとえば「茶色」や「肌色」は、物体表面の色としてしか知覚し得ない色である。黒い紙にあけた小さな穴を通して、物体の色とは意識しないようにしながら光源色モードで見ると、茶色は彩度の低い暗いオレンジに、肌色は彩度の低いオレンジにしか感じられない*28。また光源色は厳密に光の波長と強度だけで「 580nm の光は黄色」のように一義的に決まるが、物体色は光源の波長や背景の色、さらに「夏の空は深い青」などの記憶や常識にも影響される。リンゴが異なる照明下にさらされていても、眼が色度に順応することによって同じ色に見えてくる「色順応」は、物体色モードだけの特徴である*29。 このように色覚は、単に錐体の出力を演算処理したものではなく、より深い知覚に根ざした複雑な感覚である。色盲の人は、純粋に色だけを感じる光源色モードに比べ、物体色モードでは表面の質感などの情報や記憶や常識なども動員できるぶん、色の感じ方をかなり補うことができる。色覚検査の結果から予想されるほど日常生活で色に困ることが少ないのには、こういった要素が影響している可能性もある。 物体色を厳密に定義するのに昔から使われてきたのが、画家であった A. H. Munsell が最初に提唱したマンセル表色系 (Munsell color system) である。この方法では色を概念的な要素に分類し、色あい、明るさ、色の鮮やかさの 3要素で表わす。色あいは色相 (hue) と呼ばれ、マンセル表色系ではスペクトルの順に赤から紫までを心理的に等間隔に 5等分して赤R、黄色Y、緑G、青B、紫P の 5つの基本色相が置かれている。さらに人間の眼は、スペクトルとしては遠く離れた紫と赤の中間の色あい (赤紫) を感じることができるので、これを介してすべての色相を環状に配置した (図17A)。補色関係にある色は円の中心を挟んで正対する。色の明るさは明度 (value) と呼ばれ、反射率 0%の真っ黒を 0、反射率 100%の純白を 10 として心理的に等分する。眼に同じ明るさに感じられる色は、同じ明度に割り当てる。したがって黄色は高めの明度、赤や青や紫は低めの明度になる。また色の鮮やかさは彩度 (クロマ, chroma) と呼ばれ、無彩色 (クロマ 0) のグレーに比べて心理的に感じられる色味の量がどれくらい多いかを表わす。マンセルは、当時入手可能だったもっとも鮮やかな色材の彩度を 9 としてクロマを等分したが*30、最近はもっと鮮やかな色材もあり、単位をそのまま外挿してクロマ 14 のように表わす*31。 色相と彩度を円内の位置で表わし、明度を高さで表わすことで、すべての色を三次元空間の立体で表現することができる。これがマンセルの色立体 (color solid) である (図17B)。色によっては、言葉では表わせても実際には存在しないものがある。たとえば「鮮やかで暗い (クロマが大きくバリューが小さい) 黄色」や、「明るく鮮やかな紫」はありえない。このため色立体は非対称な形状になっている*32。 マンセル表色系を用いると、表示装置に関係なく機種非依存的 (device independent) に、物体の色を色相、バリュー、クロマの 3数値で厳密に表わすことができる*33。JIS 規格では、これと後述の CIE xy 色度 (2.6 節G 参照)を利用して道路や安全標識などの色を規定している*34。たとえば緑の標識は「10 G 4/10」(青と青緑の中間で、明度 4、彩度 10) の色に決められている*35。マンセル表色系はインテリアやカラーコーディネートの世界でも、色指定の方法として広く使われている。 マンセル表色系では、色盲の症状は「同じ明度、彩度で、色相だけが異なる場合、一部の範囲の色あいが見分けにくい」と表現できる。逆に同じ色相でも、明度や彩度が異なれば容易に弁別できる。 マンセル表色系で提唱された色相、明度、彩度の概念は直感的でわかりやすく、色を厳密に規定できるにもかかわらず、色相の指定法が単純な数字でないためか、コンピューターの色指定で用いられることはない*36。この世界ではマンセル表色系からいくつかの点を改変した HLS や HSB 色表現が使われている。 まず色相 (Hue) を 5つの基本色で表わす代わりに、加色法の 3原色である赤緑青 (RGB) と減色法の 3原色であるシアン、マゼンタ、イエロー (CMY) とを等間隔に配置して、色を 6等分する (図17C)。これによって RGB と CMY がそれぞれ正三角形に並ぶようになる。色相の値は円環上の赤の位置からの角度を使って 0 〜360 度で表わす。赤緑青の 3原色は 2.6節A で示したテレビの蛍光体の色で決まるので、マンセル表色系の赤緑青 (図17A) とは一致しない。コンピューターの赤 (H=0 度) とマンセル表色系の赤 (5R) はほぼ一致するが、コンピューターの緑 (120度) はマンセルの緑と黄緑の中間 (10 GY) 付近に、青 (240度) は青紫 (7.5PB) 付近に来てしまう。また円の中心を挟んで正対する色は、RGB の計算上は補色の関係 (足し合わせると白になる) になるが、マンセル表色系と異なり、実生活で感じる心理的な補色とは一致しない。 マンセル表色系と同様に物体色に対応した HLS 色表現では、明度に Lightness (0 〜100%) を、彩度に色の飽和度 Saturation (0 〜 100%) を用いる (図17D)。Lightness は物体表面の反射率に対応しており、0%なら色相や彩度に関わらず黒、100%なら白となる (つまり同じ色でも明るいほど白っぽくなる)。心理的に定められたマンセル表色系では色による見た目の明るさの違いの補正が明度に加味されていたが、HLS 色表現では一律に明度 50%が、白みや黒みがなくもっとも鮮やかな色となる。したがってマンセル系と違い、同じ明度値でも色相によって見た目の明るさがかなり異なる*37。 一方 HSB (HSV) 色表現は、光源色に対応したものである。この表現では明度は光の強度 (Brightness, Value) であり、赤緑青など各色の光について、0%か 100%までの明るさが存在する (図17E)。したがっていちばん鮮やかな色は明度 100%の面に来る。また同じ色相、明度の場合、円の内周に行くほど他の色光が足し合わされ、白色に近く (彩度が低く) なると同時に、強度も強くなる。同じ明度値でも色によって見た目の明るさが異なって感じられる欠点は、HLS 色表現と同じである。また同じ saturation と呼んでいても、HLS と HSB では彩度の定義や数値が異なる。 F:スペクトルの色表現と CIE 1931 RGB 表色系 第1回に解説したように人間の眼は 360 〜830nm の光を検知する能力を持つが、スペクトル両端では感度は非常に低く、光を色としては認知できない。色を感じることができるのは事実上 400 (紫) 〜 700nm (赤) の範囲である。各波長の光が色空間のどのような点に位置するのかは、視野の半分にプリズムで分けた単色光を、他の半分に赤緑青の 3原色を組み合わせた色を被験者に見せる装置を使い、赤緑青をどのような比率で混合すると単色光と同じ色に見えるかを実験することによって測定できる。 色に関する基準を国際的に管理しているのが国際照明委員会 (Commission Internationale de l'Eclairage; CIE) である。CIE は 1931年に表色系に関する規格を定めた。まず定義しやすい 3原色として、赤には知覚の実用上限である 700nm、緑と青には水銀ランプの輝線波長 546.1nm と 435.8nm *38 を用いて、この 3者の配合比で色を座標表示することとした。また 3原色の強度は絶対的な光の強度そのものでなく、混合した色が色温度 4,800K の白色に見えるときに必要な各色の輝度を 1とし、それに対する相対比で表わすこととした (刺激値と呼ぶ)*39。この方法で色度を規定するのが CIE 1931 RGB 表色系である (図18A)。これによりすべての色は三次元空間上の一点として表わせる。 明るさを無視して色あいだけを考えるときは、R、G、B の絶対値でなくベクトルの方向だけがわかればよいので、合計が 1 になるように R/(R +G +B)、G/(R +G +B)、B/(R+G+B) の 3数値 r、g、b に変換し、それを rg 面に射影することで色を二次元平面で扱うことができる (図に表われない b は 1-r-g で計算できる)。これが rg 色度図である (図18B)。2.6 節A で紹介したコンピューターの RGB 色表現と違い CIE の RGB 表色系では、r、g、b の 3つの値で色を機種非依存的に厳密に表わすことができる*40。 各波長の単色光は、3原色を単純に加算しただけではどうしても再現できない場合が多い。この場合、たとえば 510nm の単色光に強さ 1.3 の赤色光 (700nm) を混合すると、強さ 1.9 の緑色光 (546.1nm) と 0.4 の青色光 (435.8nm) を混合したのと同じ色を作ることができる。そこで 510nm の単色光の色度は、−1.3、1.9、0.4 というようにマイナスの値を用いて定める。同様に、400nm のように用いた 3原色より短波長にある光も単純な加算では再現できないが、この単色光に強さ 0.01 の緑を足すと、強さ 0.02 の赤と 0.99 の青を足したのと同じ色にできる。そこで 400nm の色度は、0.02、− 0.01、0.99 で表現できる。 r、g、b の色度値は多くの場合に符号がマイナスになってしまい、取り扱いに不便である。そこで RGB 表色系の三次元空間からすべての色度を正の値で表わせるよう座標軸を適当に変換したのが、XYZ 表色系である。X と Z は、RGB 表色系の座標の R 軸 (赤) と B 軸 (青) に近いが現実には存在しない仮想的な色の光を軸にとっている。一方Y は G 軸 (緑) に近いが、光の明度に対応した軸になるよう設定してある*41。RGB の場合と同様、明度を無視して色あいだけを考えるときは、合計が 1 になるように X/ (X+Y+Z)、Y/ (X+Y vZ)、Z/(X +Y +Z) の 3数値 x、y、z に変換し、それを xy 面に射影することで、二次元平面で扱う (z は 1 −x −y で計算できる)。これが xy 色度図である (図18C)*42。 xy 色度図は色彩を定量的に議論するのに好都合なので、色彩工学や色に関する各種規格で広く用いられている。しかし x や y の値から色を直感的にイメージするには不便なので、色管理に関するごく一部の領域を除いて、デザインや出版業の現場では普及していない*43。 CIE 表色系が人間に知覚可能なすべての色範囲 〔色域、ギャマット (gamut) 〕 を表わせるのに対し、コンピューターの RGB 色表現や印刷の CMYK 色表現ではごくわずかな範囲の色しか表現することができない (図18D)。テレビモニターは赤緑青の 3色の蛍光体の色を加算して色を表現するので、表現できる色の範囲 (ギャマット) は各蛍光体の色度座標を結ぶ三角形の内側に限られる。また印刷で用いる CMYK の 4色インクでは、表現できる色の範囲はさらに小さい*44。たとえば抗体染色に用いる蛍光色素の鮮やかな緑は、印刷では再現できない。 光の 3原色に基づいて色を規定している XYZ 表色系を使うと、色盲における色の見え方を定量的に扱うことができる。2色型色覚の人の大きな特徴は、3色型色覚の人には異なって見える様々な色が 1 つの同じ色に見えてしまうことである。たとえば第1色盲の人には、緑錐体と青錐体に入る光の刺激値が同じであれば、赤錐体が感じるべき光の量に関係なく同じ色に見える。これは色度図ではどのように表現できるのだろうか? 色盲の人にいろいろな色の参照光を見せて、それと同じ色を 3原色を組み合わせて作ってもらう。第1色盲の人ならば、赤の光を使わなくても緑と青の 2色だけを組み合わせれば、同じ色に感じられる光を合成できる。このときの光の強さ R と G を測り、換算式で値変換して CIE xy 色度図にプロットすると、2色型色覚の人に同じ色に感じられる色は xy 色度図で 1直線に並ぶ。この線の上に並んだ色は、3色型色覚の人には異なった色に見えても、すべて 2色型色覚の人には同じ色に混同して見えるのである。この線を混同色線 (confusion line) という*45。
xy 色度図の上には無数の混同線が引ける。混同色線の数だけの色あいを、2色型色覚の人は見分けられるということである。xy 色度図では、赤と緑を結ぶ線に対し、青と黄色を結ぶ線がほぼ直行している (図18C)。これに対応して、混同色線の走り方は、赤緑色盲の第1色盲と第2色盲は赤-緑軸にほぼ並行 (図19A、B)、青黄色盲の第3色盲はそれとほぼ直行して、青-黄軸にほぼ平行になる (図19C)。ただし混同色線はすべて平行ではなく、放射状に分布して色度図のほぼ 1カ所で互いに交わる。この点は第1色盲の場合は赤い単色光の付近、第3色盲の場合は紫の単色光の付近になる。第2色盲の場合はスペクトルを離れた仮想状の色の点になる* 46。 混同色線を色度図の上の色の分布 (図18C) と比較することで、どのような色が見分けにくいかを判断できる。たとえば xy 色度図で緑は図の左上、波長で 500 〜540nm あたりに広がっている。この中で最も長波長の (黄みの強い暖色系の) 緑は、第1色盲と第2色盲の赤や黄色を通る混同色線の上に来てしまう。したがってこの辺りの色あいは、赤や黄色と間違えやすい。またその少し短波長側の緑は、茶色を通る混同色線の上に来るので茶色と間違えやすい。なるべく青みの強い緑にすることで、他の色と混同しにくくすることができる。 さらに波長を短くすると緑と青緑の間に、白を通る混同色線の上に来る点が存在する。この辺の波長は赤緑色盲の人には無彩色に見える。色盲の人に緑がグレーに見えることがあるのは (図4参照)、この関係を反映している。 xy 色度図を見ながら混同色線の上に乗らない色を探すことで、色盲の人にも見間違いにくい色の組み合わせを選ぶことができる。たとえば色を間違えると即事故につながる信号機や自動車のランプ類、道路標識などの色は、なるべく混同色線に乗らないように xy 色度図のどの範囲の色を使うかが JIS 規格で厳密に定められている。 しかし第1、第2色盲と第3色盲では混同色線がほぼ直行しているため、すべての人に見分けやすい色を選ぶのは容易ではない。たとえば第1、第2色盲では緑と青は遠く離れており、弁別が非常に容易である (図19A, B) が、第3色盲ではこれらの色は混同色線に乗ってしまい、見分けるのは難しい (図19C)。単一の明るさに限られた xy 色度図の平面内で色の割り振りを考える限り、すべての人への対応は困難である。したがって色覚バリアフリーは、実は色の組み合わせを考えるだけでは実現不可能であり、明度を変化させたり、色でなく形の情報を組み合わせるなどの対策が不可欠である (本連載第3回参照)。また、第1、第2色盲は先天色盲がほとんどであるが、年齢に応じて頻度が急増する後天色盲のほとんどは、第3色盲に近い症状を示す。したがって、若年者が多い学校などでは第1、第2色盲を、高齢者が多い病院などでは第3色盲を中心にバリアフリーを考えるのも、1つの方策であろう*47。 |
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細胞工学Vol.21 No.8 2002年8月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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「色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション」 |
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