色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション |
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1.9 色覚の多様性を表す「運良く正常な色覚」 不等交叉による相同組換えは様々なハイブリッド視物質を生み出すが、もう一方の視物質と分光吸収特性が十分に違えば、「ほぼ正常」な色覚を示すと考えられる。現行の色覚検査では、日本人男性の 5%が「色覚異常」であり、残り 95%は色覚に異常がないと診断されている。学校などで色覚検査を受けるものの、十分にその検査について説明を受けていない我々にとっては、色覚には正常なものと異常なものの 2つしかないという誤解を生じうる。だがどのような生命現象においても、その表現型を「正常」と「異常」にふり分ける際には、測定法と閾値の設定のしかた次第で、いくらでもその割合は振れてしまう。実際に、赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子を1コピーずつしかもたず、かつ現行の色覚検査で「正常」と診断された男性のうち、25%がハイブリッド遺伝子を持っていたという調査結果がある22)。これらの人々の色覚は、現行の色覚検査によって「正常」と判断されるのに十分なほど、ハイブリッド視物質ともう 1つの視物質の分光吸収特性が違っていただけに過ぎない*12。このような「運良く正常」と診断された人々と「異常」と診断された 5%の人を加えた日本人男性の 30%は、程度の差こそあれ、他の 70%の人と異なる色覚を有していると言える。またハイブリッド遺伝子の関与以外にも、前述のように赤オプシン遺伝子には 180番目のアミノ酸をコードする塩基配列にポリモルフィズムが存在し、日本人と白人でセリンをコードしている人がそれぞれ正常色覚の 78%、62%、アラニンをコードしている人がそれぞれ 22%、38% の割合で存在し(表2)6)、これによっても色覚に明確な差があることが証明されている4)。色覚はまさに多様なのである。 謝辞 本稿を執筆するに当たり、滋賀医科大学の山出新一、東京慈恵会医科大学の北原健二、大城戸真喜子の各氏から多大な御助言をいただきました。また、山田琢磨、田中陽介の両氏からは本稿に対して有意義な御意見をいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
■文献:
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細胞工学Vol.21 No.7 2002年7月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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