1.3 視物質遺伝子とその構造
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図2:赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子のX 染色体上での配置
緑オプシン遺伝子の数には個人差がある(表1参照).染色体上では上流から赤,緑の順にオプシン遺伝子が並ぶが,上流の2 つの遺伝子しか発現しない.
山口朋彦: Practical Ophthalmology (2001) 4:76-79 より改変. |
視物質は、オプシン (opsin) と呼ばれる視物質タンパク質とビタミン A誘導体 (レチナール; retinal) の複合体である。視物質タンパク質は、杆体に存在するロドプシン
(rhodopsin)、青、緑、赤各錐体に存在する青オプシン、緑オプシン、赤オプシン (blue, green, red opsin) の 4種類が存在する。このうちロドプシンと青オプシンは、どちらも
348個のアミノ酸から成り、それをコードする遺伝子はそれぞれ第3染色体と第7 染色体に存在している1)。一方、赤オプシンと緑オプシンをコードする遺伝子はどちらも
X染色体の長腕 (Xq28) に存在し、赤オプシン遺伝子の下流に緑オプシン遺伝子が隣接して配置しており、赤オプシン遺伝子が 1コピー、緑オプシン遺伝子が
1〜数コピー存在している1) (図2 、表1)。
表1. 緑オプシン遺伝子の数 |
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北原健二: 日本眼科学会雑誌(1998) 102: 837-849 より引用. |
赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子の構造は非常によく似ており、どちらも 6個のエクソンから成り、塩基配列レベルでの相同性は 98%と非常に高い
(図3)。コードしているタンパク質はどちらも 364個のアミノ酸から成り、そのうち 15個だけが異なっている (図3)。この 15個のうち 7個のアミノ酸が分光吸収特性の違いに関与しているとされており、特に
180番目のセリン (赤) がアラニン (緑) になることによって 6nm、277番目のチロシン (赤) がフェニルアラニン (緑) になることによって
9nm、285番目のスレオニン (赤) がアラニン (緑) になることによって約 15nm、吸収極大波長が変化する2)、3)。このうち
180番目のアミノ酸にセリンをコードするかアラニンをコードするかは、赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子のポリモルフィズムとして知られており (表2)、赤視物質においてはこのアミノ酸の違いが吸収極大波長を
6nm 程度変化させる4)〜 6)。よって、赤オプシンと緑オプシンの違いを作っている主な要素は 277番目と 285番目のアミノ酸であり、この
2つのアミノ酸をコードする第5エクソンが赤視物質と緑視物質の性質を分けている鍵と言える2)、3)。
図3. 赤オプシンと緑オプシンの一次構造 |
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赤オプシンと緑オプシンでは364 個のアミノ酸中15 個(A の黒丸)だけが異なる.180,277,285
番目のアミノ酸が2 つの視物質の分光特性の違いに大きく関与している.277 と285 番目のアミノ酸はどちらも第5 エクソンにコードされている.B
の1 〜 6 の数字はエクソンの番号を示す.A は,Nathans J, et al: Science (1986) 232: 193-202 より引用,B
は,山口朋彦: Practical Ophthalmology (2001) 4: 76-79 より改変. |
表2. Ser180 とAla180
のポリモルフィズム |
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北原健二: 日本眼科学会雑誌(1998) 102: 837-849 より引用. |
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