色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション |
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3.8 学会などで発表する際の留意点 A:色名のみによる指示を避ける 3.4節F の図版説明と同様に学会での発表の際も、「緑色は◯◯を示しています」のように色名だけで指示せず、ポインター等で対象を指し示しながら「この緑色の△△は◯◯を示します」と表現すれば、理解されやすくなる。 B:図の凡例などに、色だけでなくその色名も記入する 色盲の人は色盲でない人の知覚カテゴリーにあわせて決められた色名にうまく対応できないので、ポスターやスライドの図に塗り分けがあることは理解できても、それが何色と呼ばれる色で塗り分けられているかには自信が持てないことが多い。色盲の人の多くは茶色の傘を緑と間違えたり、ピンクのブラウスを水色と間違えたりして、周囲の人に変な顔をされた経験を持っているため、他人の前で色の名前を口に出すことに慎重になっている。 学会場で大学院生のポスターを前に「このグラフの黄色い線は何を示すのかね?」と質問して、「は? この黄緑の線ですか?」と聞き返されるのは、立場上間違いが許されない偉い教授にとってはなるべく避けたい事態である (残念ながら男性優位が続いている学問の世界では、事実上大学教授の 20人に 1人は色盲である)。塗り分けの内容を示す凡例に色名を併記しておくと、教授は色名を口に出す前に凡例をチラッと見て確認することができ、スムーズに議論を進めることができる。 C:赤のレーザーポインターは第1色盲の人に見えないことがある
赤いレーザーポインターは長波長の光を使用しているために、第1色盲の人には見えないことがある。635nm、650nm、670nm
などの波長が使われているが、図21 で示すようにヒトの網膜の比視感度はこの波長領域で急激に低下しているため、長波長のレーザーほど暗く感じる*36。一方可視光領域が長波長側から狭まっている第1色盲の人の比視感度曲線を見ると、635nm
のレーザー光は第1色盲の人にも辛うじて光として感じられるものの、650nm や 670nm のレーザー光は見えないことがわかる。これでは演者がどこを指し示して説明をしているのか、まったくわからない。一方最近急速に普及してきた緑色のレーザーポインターはすべての人の比視感度曲線のピークに近い
532nm という波長を持ち、誰にでも明るく見やすい (図21)*37。学会の運営関係者や大学・研究所のセミナー室担当の方は、ぜひ緑色のレーザーポインターを用意していただけると素晴らしい*38。 なおレーザーポインターを使わないでも、PowerPoint でマウスポインターを用いたり、オーバーヘッドプロジェクター (OHP) なら OHP シート上でペンなどを用いて図を指し示すことにより、わかりやすく説明することができる。狭い会場では指示棒も便利である。これは一見旧式に見えるが、視認性という点では実はきわめて有効で、バリアフリー性も非常に高い。 D:学会参加者への周知 学会における発表の色覚バリアフリー化は、決して高度で複雑なノウハウの塊ではなく、簡単なアドバイスで実現できるものばかりである。アメリカ視覚眼科学会 (Association for Research in Vision and Ophthalmology; ARVO) では J. Neitz と M. Neitz の尽力で、過去数年来参加者に対して事前配布される演題募集要項に色覚バリアフリーな発表法に関するアドバイスが掲載され*39、当日も毎年ポスター会場で、バリアフリーの解説が掲示されてきた。(内容はhttp://www.mcw.edu/cellbio/colorvision/ で「excuse me. 」の項を参照). 北米神経科学会(Society for Neuroscience)でも「Avoid using red and green next to each other since many are red/green color blind.」と、簡単ではあるがアドバイスされている(本年度年会のプログラムhttp://apu.sfn.org/images/AM2002/prelimprog.pdf のp.72)。このようなアドバイスの掲載は非常に有効なので、視覚に関連する分野だけでなくすべての分野の学会の運営関係者の皆様に、演題募集要項に同様のコメントを掲載するようお願いできれば、非常に嬉しいところである。
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細胞工学Vol.21 No.9 2002年9月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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