色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション
 
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第2回 色覚が変化すると、どのように色が見えるのか?

2.3 青黄色盲の人にはどのように色が見えるのか

連載第1回を含めて青黄色盲 (第3色盲) にはほとんど触れていないので、まず第3色盲の生じるメカニズムについて説明する。第3色盲で変異を生じている青オプシン遺伝子は第7染色体に存在するため、遺伝形式は常染色体劣性である。赤緑色盲が隣接する赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子の間の不等交叉による相同組換えによって高頻度に生じるのに対して、青オプシン遺伝子は単独で存在するため変異の生じる頻度も低く、第3色盲の頻度は数万人に 1人(約 0.002 〜 0.007%)と稀であると言われている*13

吸収スペクトルに重複が大きい赤と緑の視物質に比べ、1つだけ離れたスペクトルを持つ青視物質が失われた場合 (図2A)、原理的には見えなくなる色の範囲ははるかに大きいはずで、重大な症状が起きそうに見える。しかし、色盲でない人は 3つの視物質のうち赤と緑からの情報を重点的に色の弁別に利用し、青からの情報の利用度は相対的に低くなっている。そのためスペクトルのシミュレーション (図3) でも明らかなように、3種類の色盲の中では第3色盲の人の色の感じ方が、色盲でない人にいちばん近いと言える*14。第1色盲における長波長域の赤と同様に、第3色盲における短波長域の青はその人の可視光線領域の外にあるため黒として認識され、そのため濃い青と黒を弁別できない (図37)。また赤と緑の光を混合した黄色は白と弁別できない。

3色型色覚の人が青錐体の情報を補助的にしか使っていないこともあり、第3色盲では他人から色覚の差を指摘されることも少なく、自覚症状も少ないと考えられ、自ら眼科を受診するケースはきわめて稀である。眼科で第3色盲様の色覚変化を指摘されるのは、他の眼科症状を訴えて受診した人がほとんどであり、これは後述する後天色盲に相当する。そのためほとんどの青黄色盲用の検査器具は、頻度の少ない先天色盲でなく後天色盲の検査用に準備されている。

* 13 学校健診の色覚検査で用いる石原表は赤緑色盲の検出を目的としているため,第3色盲は検出されない.また第3 色盲は自覚症状に乏しいので,それだけのために眼科を訪れることはまずない.診断方法や診断基準の不備のために,眼科でも見過ごされている事例もあると考えられる2).赤緑色盲の確定診断に用いるナーゲル型アノマロスコープは緑〜赤領域の色合わせ法のための検査機器であるが,第3 色盲の人はこれでは色盲でない人と同じ所見を呈することになる.青〜緑領域の色合わせ法には別のMoreland 型アノマロスコープを用いる2).パネルD-15 テストでは第3 色盲に典型的な並べ方をした場合には第3色盲を強く疑うことができる.いずれにせよ,赤緑色盲の検出並みに徹底して調査すれば,もう少し頻度が高くなる可能性がある.
* 14 色盲でない人が第3 色盲のシミュレーションを見ると,これが色盲でない人にもっとも近い見え方だと感じられるが,赤緑色盲の人がこの第3 色盲のシミュレーションを見ると,他の3 つとは1 つだけかけ離れた,似ても似つかない画像に見える.赤緑色盲の人は青の情報に大きく依存して色を弁別しているために,青情報の欠けた画像は元画像とまったく異なった色に見えるわけである.赤緑色盲の人が似ても似つかないと感じるこの第3 色盲のシミュレーションは,赤緑色盲の人がなんらかの原因で後述の後天青黄色盲を呈した場合の色覚にほぼ相当する.

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細胞工学Vol.21 No.8 2002年8月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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