色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション
 
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第1回 色覚の原理と色盲のメカニズム

1.7 複合型保因者の遺伝

高校の教科書でもう 1点注意が必要なのは、赤緑色盲の男性と保因者の女性の間に生まれた女児は 50%の確率で赤緑色盲になると説明されていることについてである。これは、1つの遺伝子の変異だけで表現型が生じる伴性劣性遺伝の場合には正しい計算なのだが、赤緑色盲のように赤オプシンと緑オプシン遺伝子の 2つが X 染色体にコードされ、どちらに変異が生じても同じような表現型 (第1色盲と第2色盲) を示すような場合には、状況はこのように単純ではない。

図7. 赤緑色盲の男性と保因者の女性の組合せにおける遺伝形式
次世代は女性のみを示している.A:同じ遺伝子の変異による赤緑色盲の男性と保因者の女性の組合せの場合,次世代の女性はそれぞれ50%の確率で赤緑色盲の女性と赤緑色盲の保因者が生じる.B:異なる遺伝子の変異による赤緑色盲の男性と保因者の女性の組合せの場合,次世代の女性はそれぞれ50%の確率で複合型保因者と父親と同じ変異を持つ保因者となる.

例えば、赤オプシン遺伝子の変異による赤緑色盲の男性 (第1色盲本人) と、赤オプシン遺伝子の変異を有する X 染色体を 1本持つ女性 (第1色盲保因者) との組み合わせのように、変異を有する遺伝子が同じものであれば、上記の確率は正しい (図7A)。しかし、変異を有するオプシン遺伝子が男性と保因者の女性で異なる場合 (例えば男性に赤オプシンの変異、保因者女性に緑オプシン遺伝子の変異がある場合) は、たとえ変異を持っている X 染色体が対となって女児に伝わったとしても、この女児においては表現型を生じない。この女児の網膜には、通常の緑錐体が第1色盲変異の載った染色体が活性化された細胞群に存在し、また通常の赤錐体が第2色盲変異の載った染色体が活性化された細胞群に存在する (図6F、7B)。よってこの両者のパッチが入り混じっていれば、赤緑色盲の表現型は生じないのである。しかしながらその女児の二本の X 染色体にはどちらにも変異が存在するので、将来この女性が産んだ男児は必ず第1色盲か第2色盲のどちらかになる。このような複合型保因者の存在を補足しておく。一見複雑な赤緑色盲の伝搬も、細胞と遺伝子のレベルで見れば、実に論理的な遺伝学の検証例になっている。

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細胞工学Vol.21 No.7 2002年7月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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