色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション
 
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第1回 色覚の原理と色盲のメカニズム

1.2 出発点としての網膜と視物質

網膜 (retina) は 5種類の神経細胞 (視細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞) が層状に配列する膜状の神経組織である。視細胞はその形態から杆体 (rod) と錐体 (cone) と呼ばれる 2種類に分類される。杆体は弱い光に反応できるために、光の強度に応じて暗所では杆体が、一方明所では錐体が主に機能している。

錐体はその形態によって 3種類 (S、M、L 錐体) に分類されるが、それぞれの錐体の分光吸収特性は異なっており、その違いは発現している視物質 (visual pigment) の性質に依存している。S (Short) 錐体 (以下青錐体) は青視物質 (吸収極大波長 419nm)、M (Middle) 錐体 (以下緑錐体) は緑視物質 (吸収極大波長531nm)、L (Long) 錐体 (以下赤錐体) は赤視物質 (吸収極大波長 558nm*2) を発現しており、眼に入った光がどのような波長成分を有するかに応じて、各視物質を介して各錐体が興奮する (図1)。各錐体の活動度の相対的な違いは脳に伝えられて処理され、色として知覚される。波長スペクトルが著しく異なっている光に対して、3種類の錐体が同じような相対比で興奮することはいくらでもある。赤と緑の混合光と、黄色の単色光が区別できないのは、このような機構による。

このように我々は、3種類の錐体の興奮の相対比によってすべての光の色を知覚しており、逆に我々が知覚するすべての色は3 つの原色光 (primary colors) を適当に混ぜ合わせることによって人工的に表現できる*3。このことから、我々の色覚は 3色型色覚 (trichromacy) と呼ばれている。光の色は各錐体の興奮の相対比によって識別されているのであるから、我々の色の弁別能力は、我々がどのような分光吸収特性を示す視物質を有しているかに依存している。3種類の視物質の構造からその性質の違いを見てみよう。

*2 この吸収極大波長の光は「赤」というより「黄緑」に相当するが,最も長波長側に分光吸収特性を持つことから,便宜上「赤視物質」と呼ばれている.
*3 テレビやパソコンの画面で見る風景写真はブラウン管に塗られた3色の蛍光物質によって表現されている.この風景写真は各蛍光物質に相当する3つの波長成分しか持たず,連続したスペクトルを持つ実際の風景とは似ても似つかないスペクトル分布を示す.しかし,人間の眼には同じように見えるのである.

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細胞工学Vol.21 No.7 2002年7月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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