2003年7月11日 公明新聞 3面 『主張』
色覚バリアフリーの実現を
身近な所から見分けにくさ解消
推定300万人
公明党が全力で推進してきたバリアフリー(障壁のない)社会構築の一環として、色覚障害者にやさしい街づくりが各地で具体化し始めている。
色の見え方、感じ方が正常とされる人と異なる色覚障害者は、男性の20人に1人、女性の500人に1人、日本全国で300万人はいると推定されている。大変な数だ。そうした人々が感じている色覚についての不便を解消することは、バリアフリー社会の重要な課題の一つだ。
ヒトの網膜には、赤・緑・青を感じとる視物質がある。三つのうち、いずれかが欠けていたり、それぞれの働きが不十分なのが色覚異常だ。日常生活を困難にするような障害ではないこと、差別につながりかねないことなどの理由から「色覚特性」と表現すべきだという意見もある。
色覚に障害を持つ人は、赤系統と緑系統など特定の色の区別が難しい。例えば携帯電話のLED(発光ダイオード)ランプが充電中の赤から、終了を知らせる緑に変化をしても分からない人もいる。身の周りには、カラフルな印刷物や広告、掲示、表示があふれ、インターネットのホームページなども多種多様な色彩に満ちているが、色覚障害のある人にとっては、さまざまな不便をもたらす。
最近では、メーカーやテレビ局が双方向性を売り物に普及を目指しているデジタルテレビ放送で、視聴者が番組参加の時に使うリモコンのボタンが問題になった。色覚障害者にとって判別しにくい赤と緑を含む四つの色だけで区別する業界規格になっていたからだ。これでは、双方向性にならない。お年寄りや体が不自由な人など、あらゆる差異を乗り越え、すべての人に使いやすくする「ユニバーサル(普遍的な)デザイン」という考え方が、まだまだ浸透していないことが浮き彫りにされた。
色覚障害を持つ学者らが東京都の地下鉄路線図を使ってアンケート調査を行ったところ、オレンジと黄緑、灰色とピンクなど特定の関係にある色名を間違えて挙げる色覚障害者が多く、13種類の色塗りの線を示すだけでは路線表示として不十分であることが改めて実証された。しかも、一般の人でも見分けにくさを訴えるケースもあることが判明した。この調査結果に注目した都議会公明党は、今月開かれた都議会本会議の代表質問で、「都の取り組みが不十分だ」と指摘し、早期改善を強く求めている。
答弁に立った石原慎太郎知事は「これだけ進んだ大東京の社会資本が、(色覚)バリアフリーという形で構えられないわけはない」と答え、積極的な対応を約した。公明党の質問をきっかけに、都では文字で路線名を表示した地下鉄路線図への改善、教育現場での配慮の徹底など、色覚バリアフリーへ向け行政の各分野が急ピッチで動き始めている。
自治体で対応可能
身近な所から少し工夫すれば、色覚障害者にやさしい街づくりがグンと進む。自治体にできることも多いはずだ。バリアフリー社会の実現には多面的な取り組みが必要だが、何よりも誤解や偏見、差別意識という「心のバリアー」を取り除くことが大切である。「これはバリアーだ」と指摘する声が上がった時に反応できるかどうか。その感受性が問われている。
<公明新聞 2003年7月11日 3面>
2003年7月7日 公明新聞 3面
色覚バリアフリー本格展開
東京都が施策具体化に着手
色覚バリアフリーの確立に向け、東京都が本格的に取り組むことになった。都議会公明党の強い要望に対し、石原慎太郎知事が「色覚障害に優しい街づくり」を進める方針を表明したもので、都営地下鉄の路線図、都庁舎のカラー表示の改善などのほか、学校現場での配慮、信号機などについても検討を開始する。今後の都の対応を展望するとともに、色覚バリアフリーの提唱者の1人である東京大学分子細胞生物学研究所助教授の伊藤啓氏に、色覚バリアフリーの意義や今後の課題を聞いた。
見分けにくい不便を解消
まず、地下鉄路線図を改善へ
1日に開かれた都議会本会議の代表質問で、公明党の大木田守議員は色覚バリアフリー推進の重要性を強調し、「都の取り組みは不十分」と指摘した。
答弁で石原知事は、「高校時代に一緒にスケッチに行った仲間の男性が、赤い鉄橋を緑に塗っているのでビックリしたことがある」と若いころのエピソードを紹介。その上で、「これだけ進んだ大東京の社会資本が、(色覚)バリアフリーという形で構えられないわけはない」と明言し、都として色覚バリアフリーの確立に乗り出す方針を示した。
個人差はあるものの、色覚に障害を持つ人は、男性で20人に1人、女性で500人に1人とされており、全国で約320万人、都内だけでも30万人以上いるといわれる。情報通信技術の進展やカラー印刷技術の向上により、色で情報を伝える手法が急速に日常化し、現代生活は色による表示や情報提供が氾濫した状況になっている。
こうした中、自らも強度の色覚障害を持つ東大の伊藤助教授や国立遺伝学研究所助手の岡部正隆氏は、色覚障害に配慮した色覚バリアフリー社会の確立を提唱。両氏と文化総合研究所(東京)の橋本知子チーフディレクターは今春、東京の地下鉄路線図のアンケート調査を行い、色覚障害者には混同しやすい色が多いため不便を感じているとの調査結果を6月の日本展示学会で発表した(詳細は、ホームページ
http://www.nig.ac.jp/labs/DevGen/shikimou.html 参照)。
同路線図は、14色に色分けされて一見カラフルだが、例えば、強度の色覚障害者には丸の内線の赤色が茶色に、千代田線の緑色も茶色にと、両路線とも同じ色に見えてしまう。また、そうでない人からも「分かりづらい」と評判が悪く、「美しさより、分かりやすさを優先してほしい」との声が上がっていた。
この調査結果を知った都議会公明党は、伊藤助教授らと連携を取り、都議会の代表質問で取り上げ、早急な対応を求めていくことを決定。こうした公明党の主張に対し、同路線図の改善について都交通局は、「早急に路線ごとの路線名を表示するとともに、引き続き必要な改善に取り組む」との方針を決めた。
公明党の主張で大きく前進
学校教材の配慮、信号機の工夫など“見やすさ”を最優先に
色覚バリアフリーの具体化について、都では関係するさまざまな分野での展開を検討している。
教育現場については、「色覚障害に対する教員の正しい理解が十分に浸透していない面もある」(都教育長)と認めた上で、教科書の挿絵の補足説明や、黒板のチョークの色遣いの工夫、教科書・副教材も含めた学習環境の整備充実などに努めていく方針。
また、色覚障害者に見分けづらいとされるLED(発光ダイオード)式信号機については、警視総監が「より見やすく、分かりやすい信号機の在り方については今後とも検討する」と約束した。
さらに都は、東京都福祉のまちづくり推進協議会で、新たな課題と位置付けた「情報バリアフリー化」への基準づくりに際し、色覚バリアフリー実現への具体策を検討する方針。また、都庁内各局はもとより、JRや営団地下鉄なども含めた事業者とも連携を図り、「多くの都民が利用する施設で(色覚バリアフリーが)取り組まれるよう努める」(都福祉局)としている。
都議会の代表質問を傍聴した色覚問題研究グループ「ぱすてる」の中堀敏子代表は「色覚障害者のための活動を十数年間続けてきたが、都議会でこの問題を取り上げてもらい、大変うれしい。私たちが求めていたものがついに実現するのかと期待している」と語っている。
色覚障害を持つ男性は、世界に約2億人もいるとされており、この数は血液型がAB型の男性の人数にひっ敵するという。赤道に近い国では比較的に少ないが、北へ行くほどその割合が増加し、ヨーロッパでは、フランスなど男性の1割を占める国も少なくないとされている。
国際都市・東京が色覚バリアフリーに本格的に取り組むことは、他の道府県だけでなく世界に向けて発信されることになり、意義は大きい。
都議会公明党の木内良明政務調査会長は、「今回の取り組みは第一弾であり、スタートを切ったということだ」と語り、今後さらに都の積極的な対応を求めるとともに、国への働き掛けも行っていきたいとしている。
実効ある施策と普及に期待
伊藤啓 東大分子細胞生物学研究所助教授に聞く
——色覚バリアフリー確立の必要性について。
伊藤 色については、これまで多くの人が内心で不便を感じながらも、「見分けられないのは自分が悪いのだろう」と諦めて我慢してきた。最近は、身体障害者などに配慮するバリアフリーが進んでおり、今後は色覚の面でも「色が見分けにくいような情報発信をする側が改善すべきだ」という発想に立ち、だれにでも分かりやすい色遣いを考えるよう配慮していくことが大切になる。
——東京都が本格的に取り組み始めたことについて。
伊藤 色覚バリアフリーは世界でもあまり進んでいない。東京都で色覚バリアフリーが進めば、他の道府県、さらには世界各国へとバリアフリーが普及する大きな推進力になる。その意味で、東京都が動き始めた意義は大きいし、非常にうれしい。実効ある施策を期待している。
——都議会公明党が取り上げたことについて。
伊藤 草の根の提案段階だった色覚バリアフリーを一気に行政の課題に引き上げてくれたことは、全国の色弱者にとって非常に大きな励ましになる。また、地下鉄の路線図や案内表示の色遣いについては、色の見え方に関する地道な学術研究にいち早く公明党が着目し、実際に具体化するための道筋を作ったことは大変素晴らしい。
——色覚バリアフリー社会の構築へ、どんな取り組みを期待するか。
伊藤 色覚バリアフリーは単にガイドラインをつくるだけではダメで、実際の現場で適切な配慮と工夫が確実に行われるかどうかがカギになる。色弱者が実際にモニターに参加して、色覚バリアフリーの要改善個所探しや、改善効果の検証に携わっていけるような公的システムをつくる必要がある。そのための制度づくりを期待したい。
<公明新聞 2003年7月7日 3面>
2003年7月2日 公明新聞 1面
色覚障害者に分かりやすく
大木田都議の質問に
都が地下鉄路線図の改善を明言
東京都は1日、色弱などの色覚障害を持つ人にとって分かりづらい都内の地下鉄路線図(都営と営団)について、図に路線名を書き込んだり、色使いに気を付けるなどの改善に早急に乗り出す方針を明らかにした。同日行われた都議会第2回定例会の代表質問で、公明党の大木田守副団長の質問に対し、松尾均都交通局長が答えた。
大木田氏は、色の区別が難しい色弱者が全国に300万人以上、存在している現状に触れながら、都交通局が作成している地下鉄路線図について、13種類の色だけで各路線を区別しているため、色弱者にとって分かりにくくなっている点に言及。「一般の人からも見分けが難しいとの指摘がある。ただちに改善に着手すべきだ」と求めた。
これに対し、松尾局長は「早急に路線ごとに路線名を表示するとともに、必要な改善に取り組んでいく」と答えた。
また、大木田氏は、教科書の色使いなど学校関連のほか、信号機、都が発行するカラー出版物、施設の案内表示についても色覚バリアフリー化を強力に推進するよう要請した。=関連記事2面
<公明新聞 2003年7月2日 1面>
2003年6月9日 東京新聞 夕刊10面
地下鉄路線図 色見づらい
色覚障害者ら調査 「美しさよりも分かりやすく」
路線ことに赤や緑など13色に色分けされた東京の地下鉄路線図は、色覚障害者が混同しやすい色が多く不便を感じていることが、東大などの研究グループのアンケートで分かった。高知市で開かれた日本展示学会で発表した。
調査したのは、自らも色覚障害のある伊藤啓・東大助教授、文化総合研究所(東京)の橋本知子研究員ら。色覚障害者約100人を含む計500人を調査した。
その結果、路線ごとに決まっている東京の営団、都営両地下鉄のシンボル色のうち、黄土色、黄緑、オレンジの路線を6ー8割の障害者が「見分けにくい」と回答。ほかに赤、緑、茶を混同する人も多かった。
逆に青緑、水色などは障害のない人の方が混同しやすく、赤や朱色など障害に関係なく見分けにくい色も使われていた。
都営、営団がそれぞれ配布している2種類の路線図で見え方を比較すると、微妙な色合いや明るさの違いで、同じ色でも混同する人の数が半減することも多かった。
色覚障害者は全国で300万人以上いるとされるが、伊藤さんは「色合いの調整次第で、バリアフリー表示に近づけられる。美しさよりも分かりやすさを優先させるように工夫してほしい」と話している。
<東京新聞 2003年6月9日 夕刊 10面>
2003年5月30日 聖教新聞 7面
動き出した「色覚のバリアフリー」対策
路線図、表示板、家電製品など、、、 分かりやすい色表示をめざす
印刷技術の発達などで、色遣いがカラフルになり、華やかになった。半面、色覚障害や白内障など、特定の色が識別しにくい人にとっては、それが逆に障害になるケースも増えている。こうした色による情報伝達障害を改善させようと、「色覚のバリアフリー(障害除去)」を普及させる動きが始まっている。課題や現状をまとめた。
印刷業者が“手引き”作成
「明るい緑とオレンジ色は、色覚障害のある人には区別がつかない」「色情報だけで表現せず、明度や形状の違い、文字・記号を併用する」ーー東京都印刷工業組合墨田支部(飯野貴敏支部長)では、見やすいカラー印刷の留意点をまとめた小冊子『色覚バリアフリーの手引き』を、このほど作成した。
冊子づくりは、同支部に所属する三宝社印刷所の中野善夫さんが、昨年夏に読んだ新聞記事がきっかけ。人により色の見え方は同じでなく、「色表示だけではコミュニケーションの妨げになる」ーー警鐘を鳴らす記事に、心を動かされた中のさんの提案で、作成準備が始まった。
中野さんの妻で、カラーコーディネーターの美千子さんも、東京ビックサイトで開かれた印刷機材やグラフィック関連のイベント「プリンテック」で、セミナーの講師を務めることに。「高品位の印刷物には、価格や美しさだけでなく、今後は色覚に配慮したユニバーサルデザインの考え方が、より求められる」と美千子さんの講演は、大きな関心を集めた。“手引き”の作成は、時宜を得た企画、と確信したという。
“手引き”は、自ら色覚障害があり、色覚バリアフリーを提唱する東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤啓・助教授らの監修を受け、その論文などを参考にしながら、半年がかりで作成。これまで印刷業界で、色覚障害者への配慮を呼びかけた資料はなかっただけに、反響が広がった。4000部作成したA4版6ページの“手引き”は、本年3月に開かれた講演会で活用されたほか、同組合員にも配布。問い合わせなどが相次ぎ、予備分も底をついている。
企業も障害への正しい理解を
色覚障害がある人は、国内の推計で約300万人、男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合でいる、と言われている。ところが、近年、インターネットの普及や印刷技術の進歩によって、多色化が進み、情報の伝達・識別を“色に頼る”ようになり、弊害も生じている。
実際、色覚障害のある人の多くは、赤や緑が茶色っぽく見える。そのため、例えば災害時の避難場所や避難経路を示す地図に、緑と赤が混在して表示されていれば、どこに避難していいのか、分からない危険性もある。
また、携帯電話や電気製品に使われている発光ダイオードは、「充電中」がオレンジ、「充電完了」すると緑に変色する製品が多い。この色の変化がわからない人もいるのだ。さらに公共交通の路線図、高速道路の渋滞情報表示板、テレビのリモコン、薬の色分けなど、色で区別するタイプの表示は、町中にあふれている。伊藤さんらは、学会など発表の場で、スライドを使って説明する機会が多い。そこで、特に緑と黄色の区別が付きにくい。深い赤と黒の違いが分かりにくい、といった課題克服に挑戦。これが色覚バリアフリーを提案するきっかけとなった。
昨年行われた、日本発生生物学会では、伊藤さんらの呼びかけで、レーザーポインターの色をすべての人が見やすい緑色に変更するなど、運動が広がりだした。
さらに、実際の風景が色覚障害がある人にどのように見えているのか、シミュレーションソフトを使い、正しく知ってもらう提案を行っており、家電メーカーなどの新製品開発に生かされるようになった。現在、首都圏の公共交通機関の路線図についてのアンケー調査を実施しており、近く学会で発表する予定だ。「色が見にくいのは自分のせい、と我慢している人が大勢いることを、デザイナーなど、製品の作り手の側が理解し、分かりやすい表示方法を工夫してほしい」と語る伊藤さん。
段差の解消や駅のエレベーターの設置など、高齢者や身体障害のある人たちに配慮しらバリアフリー化が進んできたが、“色覚のバリアフリー”への新たな取り組みが今、注目を集めている。
<聖教新聞 2003年5月30日 7面>
2003年5月29日 公明新聞 3面
期待される「色覚バリアフリー社会」の構築
充電中はLED(発光ダイオード)のランプが赤いが、充電が完了すると緑に変わる——。電気製品の説明書でよく見かける説明だ。しかし、その変化が分からない人たちもいる。色覚異常の人たちであり、日本に300万人以上いると言われている。各種印刷・出版物、広告・掲示物、ポスター・チラシのほか、インターネットのホームパージなどもカラフルになり、色の氾濫が顕著。そうした中、色で伝える情報などに対しても不自由なく暮らせる社会をつくろうという「カラー(色覚)バリアフリー社会」確立への主張が注目され、一部自治体では具体的な取り組みが始まっている。
小学4年時の色覚検査を廃止
教育現場で求められる分かりやすい色情報の提供
文部科学省は4月から、これまで小学校4年生の定期健康診断の際に行ってきた色覚検査を廃止した。同検査で色覚異常と判別される児童のほとんどは学校生活に支障がないというのが廃止理由で、「健診の必須項目ではなくなったという意味で、保護者が希望すれば学校医による健康相談の中で個別に色覚検査を受けられる」(文科省学校健康教育課)と説明する。
色覚異常は、呼称の便宜上「異常」「障害」などと一般的に表現されているが、高齢者の白内障など後天的な場合を除けば、遺伝による先天的のものであり、病気や異常、障害というわけではない。また、その度合いも個人差が大きい。このため、人によって色の見え方が少しずつ違うという意味で、「色覚特性と呼ぶべきだ」との主張もある。
日本では、軽度のものまで含めると男性全体の約5%に当たる約300万人、20人に1人の割合で何らかの色覚異常があるとされ、女性も約0・2%の約12万人、500人に1人の割合になっていると推定されている。つまり、男女20人ずつの40人学級なら、平均して各クラスに1人ずつ色覚異常の児童がいる計算になる。
文科省が使用色の配慮事項徹底
学校健診での色覚検査の廃止に伴い、教師は今後、そのクラスに色覚異常の児童がいるかいないかの区別なく、すべての児童にとって分かりやすい色情報の提供を心掛けなければならない。
このため、文部科学省は全国の小中学校の教師全員に、「色覚に関する指導の資料」を配布。教師は教育活動の全般にわたり、色の見分けが困難な児童がいるかもしれないという前提に立って、(1)黒板に板書する際は白と黄のチョークを主に使う(2)掲示物の文字と背景の色は明暗がはっきり分かる組み合わせにする(3)テストの採点・添削では色鉛筆など太字の朱色を使用する——などと細かな配慮事項を徹底した。
それでも、学校健診での検査廃止に反対してきた色覚問題研究グループ「ぱすてる」の内山紀子副代表は、「検査が希望者だけになると、自分の色覚異常に気付かないままという人も出てくる。また、一括した検査がなくなることで、社会全体の色覚異常に対する認識が薄れていくことが最も心配」と指摘する。
検査がなくなっても、実際の色覚異常が減るわけではない。検査廃止への賛否はともかく、色覚異常に配慮した社会でなければならないという認識こそ重要であり、内山副代表らも、そうした認識を基本にした啓発活動を行ってきている。
刊行物、地図、案内板、標識など 色覚多様性への対応必要
近年、色覚異常に配慮した「カラー(色覚)バリアフリー社会」を構築しようという主張が注目を集めている。
自らも強度の色覚異常を持つ国立遺伝学研究所助手の岡部正隆氏、東京大学分子細胞生物学研究所助教授の伊藤啓氏の2人の科学者が「カラーバリアフリー社会」の構築を提唱し、さまざまな取り組みを展開してきた。
両氏は、2人が所属する生物科学系の学会や専門誌で、色覚バリアフリーの観点に立った研究発表の方法を提案。例えば、(1)折れ線グラフは色だけでなく、線の種類を変える(2)棒グラフには模様をつける(3)地図などの配色は色の違いではなく、明るさの違いで示す——など、色覚異常の人にも分かりやすい方法を取り入れるよう提案。その詳しい内容は自分たちのホームページ(http://www.nig.ac.jp/labs/DevGen/shikimou.html)でも紹介している。
また、実際の風景が色覚異常の人にどう見えるかを示すシミュレーションソフトを活用し、色覚異常でない人に、色覚異常の見え方を正しく知ってもらう試みも行った。
リモコンボタンを業界が再検討
さらに、両氏は今、首都圏の公共交通機関の路線図などについて、色覚バリアフリーに関するアンケート調査を実施しており、その結果を6月8日に高知市内で開かれる日本展示学会で発表する予定だ。
色覚異常を持つ人の多くは、赤や緑、オレンジなどの色の差が見分けづらく、深い赤と黒の違いも分かりにくい。2000年12月に始まったBSデジタルデータ放送は、視聴者がクイズやアンケート番組に参加できる「双方向性」が売り物だが、それに使うリモコンのボタンが赤と緑を含む4色であるため、色覚異常の人には判別しにくいとされ、業界も再検討を始めた。
色覚バリアフリーへの取り組みは、自治体や業界の自助努力で徐々に広がりつつあるものの、岡部氏は「教科書のカラフルな図版など教育現場での色覚バリアフリー化が今、一番の気掛かり。自治体も刊行物や、地図や案内板、標識など公共掲示板などの色覚バリアフリー化を検討してほしいし、国には交通バリアフリー法の中に色覚の多様性への対応を盛り込むことを検討してほしい」と語っている。
公明 地方議会で改善を推進 チョーク、市ホームページなどに工夫
色覚バリアフリー社会の構築に向けた公明党の取り組みは、既に、地方議会で始まっている。
埼玉県川越市の大野慶治議員は、昨年3月定例会などで全市立小中学校への色覚異常対応チョークの導入を主張し、実現させた。これを受けて、埼玉県の福永信之県議は県教育局に対し、全県立学校への同チョークの導入を要請。同局は今年1月、全県立学校の教頭が集まった会議で、その趣旨を周知徹底した。
また、埼玉県鶴ヶ島市の五傳木隆幸議員は昨年6月定例会で、市刊行物の色覚バリアフリー化を提案。同市発行の「ごみ・資源収集カレンダー」03年版などが順次、色覚バリアフリー化されている。
自治体のキメ細かな対応に期待
一方、千葉県船橋市の松嵜裕次議員は昨年6月定例会で、市のホームページの色覚バリアフリー化を提案。今年3月、同ホームページに色覚異常などに対応した「バリアフリー機能」が加わり、文字の大きさや背景・文字・リンクの配色などが自由に選べるようになった【写真】。
同市では「バリアフリー機能のソフトをダウンロードできるホームページはあったが、ホームページ自体に最初からバリアフリー機能が備わったものは、自治体では船橋市が全国初」(広報課)と語る。
さらに、静岡県三島市の国府方政幸議員は昨年10月、岡部氏を講師に招き、市内の学校教師らを対象にした市主催の色覚バリアフリー講演会を開いて好評を博した。この模様は、TBSのテレビ番組「JNN報道特集」(11月24日放映)の中でも紹介された。
公明党の取り組みは緒に付いたばかりだが、岡部氏は「教育現場や庶民の身近なところで、この問題に目を向けてもらえるという意味で大変に有意義だ。こうした動きが各自治体に広がり、この問題に対する一層キメ細かな対応が可能になることを期待している」と評価している。
<公明新聞 2003年5月29日 3面>
2003年4月18日 東京新聞 朝刊 11面
色のバリアフリー
『色覚障害でも分かる表示を』
赤と緑などの違いが分かりにくい色覚障害(異常)を持つ人は、国内に300万人以上いるとされる。しかし、公共の掲示物などで、彼らに対する配慮は、あまりされてこなかった。印刷のカラー化が進む社会で、むしろ不便さが増している現実がある。こうした中、色覚障害があっても分かりやすい「色のバリアフリー化」を進めようという動きが、一部で始まった。
「緑色を背景にした赤い文字は避ける」「色だけで情報を表現せず、形の違いや文字を加えたデザインを心掛ける」「赤は見やすい朱赤に」−。
こんなアドバイスをまとめた全国的にも珍しい小冊子「色覚バリアフリーの手引き」を先月、東京都印刷工業組合墨田支部が三千部発行し、組合員らに配った。組合員が知人から「色覚障害者に分かりにくい印刷物が多い」という話を聞いたのが、きっかけの一つだった。
色覚障害を持つ東大分子細胞生物学研究所助教授・伊藤啓さん(39)らが監修し、色の選び方などの注意点をまとめた。 事務局担当の有薗克明さんは「印刷の世界の人間として、これからは絶対に頭に入れておきたい。組合として今後、『見えにくい』という地下鉄路線図を公募デザインコンペする案が出ている」と話す。
「若狭路博2003」の会場として福井県小浜市に九月に開館する「食文化館」は、展示に「色覚バリアフリー」を意識した初めての博物館だ。
展示物の設計を手掛ける文化総合研究所(千代田区)のチーフディレクター、橋本知子さんは昨年初め、学会発表データの色彩面での改善を二年前から訴えてきた伊藤さんの活動を知り、共鳴した。色覚障害を持つ友人から以前、「展示が見えにくい」と言われたことがあったからだ。
博物館関係者が集まる五月の展示学会で、展示解説パネルの改善などを提案。近く「バリアフリーデザインブック」を刊行し、各地の博物館や自治体に配る。橋本さんは「これから私たちがつくる展示は、間違いがないようにしたい」と話す。
公共施設でも、信号機の「赤」が朱色寄りの赤にされるなど、以前から改善の動きはある。しかし、それは一部。色覚的に配慮が欠けたデザインは多いという。
例えば、二〇〇〇年十二月に始まったBSデジタルデータ放送。リモコンの四色カラーボタンを押してクイズなどに答える視聴者参加機能が、売り物の一つだ。
伊藤さんは「緑のボタンを押してくださいと言われても分からない。赤と緑を廃止するか、色名を印刷するといった対策がほしい」と訴える。 年々カラフルになる小学校教科書も課題だ。「どの色が一番長い?」という設問に、橋本さんは「これでは色覚障害のある子どもは正しく答えられない」と指摘する。
ただ、一口に「色覚障害」といっても個人差が大きく、「正常」に限りなく近い人もいる。 就学や就職などの不合理な差別と戦ってきた「日本色覚差別撤廃の会」の顧問を務め、自らも「色覚異常」を持つ金子隆芳筑波大名誉教授(色彩心理学)は、こう話す。「色覚に不便を感じる人は『異常』とされた人の半分以内だと思う。一緒くたに『バリアフリー』を求めると、正常に近い人まで『こんな風に見えているのか』と偏見を持たれる恐れがある」
当事者の間で姿勢が割れている複雑な問題でもある。 伊藤さんは「色覚バリアフリーが進めば、差別も解消される」という立場だ。「色覚障害者はこれだけ多いのだから、血液型のように、色の見え方によって性格占いや相性診断をする軽いノリがあってもいい。色の見え方は『正常』『異常』の二種類ではなく、それぞれ多様なんです」
<東京新聞 2003年4月18日 朝刊 11面>
2003年2月1日 公明新聞 7面
色覚バリアフリーの社会を!
色覚障害者が提唱 「少しの工夫で見やすくなる」 静岡県三島市
静岡県三島市は昨年10月、「色覚バリアフリー」の講演会を学校の教師らを対象に開催し、大きな反響を呼んだ。講師を務めたのは、色覚バリアフリーの提唱者の一人で同市にある国立遺伝学研究所助手の岡部正隆さん(34)。色覚バリアフリーとは、生活のあらゆる場面で色覚障害者にも健常者にも分かりやすい色彩を使用すること。文字と同様に、誰もが同じように正確に情報を判断できるように配慮することで、市議会公明党の国府方政幸議員も岡部さんを全面的に支援し、行政の積極的な取り組みを推進している。
岡部さんは自身が強度の色覚異常である。発生生物学の研究者として、実験や発表の場で特定の色情報が判別できないことで苦労をしてきた。こうしたことから、他の研究者と協力し、2001年夏の研究会で「色覚バリアフリーのプレゼンテーション法」を発表、その後も、さまざまなセミナーで啓発活動を始めた。
また、インターネット(アドレスは別掲)では、・色覚障害者がどのように見えているのか・駅の掲示板など日常で見にくい色使いの例・図表を見やすくする工夫や色覚障害者にも見えやすい配色や学校の授業などでの配慮すべき点――などについて提案したほか、これまでの研究成果やマニュアルを冊子にすることも計画している。
色覚障害者は、決して「モノクロ」の世界を見ているのではなく、程度の差はあれ大半の色は識別できる。しかし、ある特定の色(赤や緑など)について識別できない範囲があるため、その色の違いが分からない。そこで、例えば濃い赤色を使わずに朱色やオレンジ色を使ったり、色の組み合わせを変えたり、色だけでなく文字や図・記号を併用するといった工夫があれば、健常者と同じように正確に区別できるようになる。
岡部さんによると、色覚障害者の数は日本人の5%(20人に1人)に上る。ところが、現実の社会は、重要な情報をより分かりやすくするために色によって区別する傾向が増えている。印刷物やIT(情報技術)関連はもちろん、日常生活でも、多彩な色を配した地下鉄の路線図や掲示板、交通標識等々、色情報は増加の一途とたどる。学校の教科書や教材も同様である。
岡部さんは「これらは健常者を基準とした色情報であって、色覚障害者にとっては重要な情報を知ることができないという大きなハンディになるのです」と強調した。
昨年、日本発生生物学会ではレーザーポインターの色をすべての人にとって見やすい緑色に変更するなど、岡部さんたちの運動は徐々に広がり始めている。
<公明新聞 2003年2月1日7面>
2002年11月22日 米国科学雑誌 サイエンス Science Vol.298, P.1551
" Breaking the Color Barrier "
Biologists usually use red and green stains to depict structures
inside cells. But that's hard on researchers with the most common form
of colorblindness; one in 12 Caucasian and one in 20 Asian males, for
example, can't tell the two hues apart. Now help is on the way from a
pair of colorblind Japanese scientists, who have persuaded Japan's leading
molecular biology journal to start printing images the colorblind can interpret.
Kei Ito, a Drosophila neuroscientist at the University of
Tokyo, and Masataka Okabe of the National Institute of Genetics in Mishima
say that with software it's easy to convert the reds into magentas, which
contain enough blue to be seen by the colorblind (see jfly.nibb.ac.jp/html/color_blind).
Months of proselytizing paid off last summer, when the editors
of Saibo Kogaku (Cell Technology) agreed to make their journal "color-barrier-free."
The method "opens up a whole new world that was previously hidden," says
colorblind geneticist Cahir O'Kane of Cambridge University.
Some U.S. journals may follow suit, says Ito. Everyone would
benefit from the changes, he notes: There's a good chance that one of
the reviewers of the next paper you submit will be colorblind.
< サイエンス 11月22日号 "RANDOM SAMPLES" >
2002年8月19日 読売新聞 生活面
「色の見え方、色々です」−−− 表示のバリアフリー化訴え 障害持つ科学者
色覚障害や白内障など特定の色を識別しにくい人にとって、公共施設などのカラフルな表示はかえって不便な場合が少なくない。すべての人が見やすい表示や環境を考えてと、自ら色覚障害を持つ科学者が「色覚バリアフリー」を提唱している。
色覚バリアフリーを訴えるのは、国立遺伝学研究所発生遺伝研究部門助手の岡部正隆さん(33)と東京大学分子細胞生物学研究所助教授の伊藤啓さん(39)。二人とも重度の色覚障害があり、「色表示がコミニュケーションの妨げになる」と痛感してきた。
赤や緑などの特定の色が判別しにくい日本人男性は二十人に一人、女性は五百人に一人といわれる。しかし、家電製品スイッチのオンとオフの切り替えをはじめ、公共交通の路線図、薬の色分け、トイレの男女別など、色で区別するタイプの表示は意外と多い。
二人は昨年から色覚障害者の色の見え方を疑似体験できるソフトを使って、「色の見えにくさ」を訴えはじめた。「目で見てはじめて、不便さを実感できる」(岡部さん)からだ。二人は、所属する生物科学系の学会で「スライドの色分が見えにくい」と訴えたほか、博物館の展示の専門家が集まる「日本展示学会」の席で、展示解説パネルをもっと見やすくと提言した。
岡部さんは「人により色の見え方は同じではないと知ってほしい。わずかな配慮でバリアフリーが実現できる」と訴える。
色に頼らない方法として、電車やバスの路線図には脇に文字を加え、線の形や太さを変える。色を使う場合は、色の明るさに大きな差をつけると、識別しやすいという。
博物館の展示に詳しい文化総合研究所の橋本知子さんは「高齢化が進み白内障の人も増えている。表示には、デザイン的な美しさだけではなくバリアフリーの視点が必要だ」と話している。
<読売新聞 2002年8月19日 朝刊 生活面>
2002年1月7日 東京新聞、京都新聞、産経新聞など各紙 朝刊 社会面
2002年1月9日 日本経済新聞 夕刊 社会面
「色にも必要バリアフリー」--- 生物学者が訴え
「色覚障害者に配慮欠く図解、、、発表者も損ですよ」
「海外の学会で反響 『赤と緑』は『紫と緑』に」
自然科学の学会や雑誌上の研究発表では日本人男性の20人に1人とされる色覚障害者への配慮を欠いた図解が多すぎるとして、自らも障害のある生物学者が各地の学会で「色のバリアフリー」を訴えている。「内容が伝わらなければ発表者にも不利なはず」という呼び掛けに、海外の学会での反響も大きいという。
色のバリアフリーを呼び掛けているのは国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の岡部正隆助手(32)と国立基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の伊藤啓助手(38)。 色覚障害を持つ人の多くは赤や緑、オレンジなどの色の差を見分けにくく、深い赤
と黒の違いもわかりづらい。白人男性の約8%、日本人男性の約5%は色覚障害があるとされている。 岡部さんは昨年8月、同研究所内で開かれた学会で、発表終了後の時間を利用して、赤と緑で色分けされた画像が色覚障害者にどのように見えるかを画像で説明。紫と緑の色分けに変換するなどコンピューターの簡単な簡単な操作でできる「バリアフリー発表法」を“伝授”した。 10月には伊藤さんがニューヨークで開かれた学会で説明。約300人の研究者の
反響は大きく、休憩をはさんだ後の発表では、ほとんどの発表者が図解の色を変更し、 変更作業が間に合わなかった人は発表の冒頭に配慮不足をわびたという。 これまで学会の席上などで分かりにくい図解を見ては不満を覚えていた、という岡部さん。「学会参加者の何人かは特定の色の区別ができない。論文を審査する人が図解を理解できないことだってある」と「発表者の利益」を強調する。 岡部さんは「科学者でも『ものが白黒に見える』と誤解している人が多い。配慮を
欠いた色使いで不便を強いられている人は多いが、外見上分からないから社会の理解も低い」と嘆く。今後も学会中の空き時間や、インターネットのホームページなどを利用してバリアフリー化を広める計画だ。
<東京新聞 2002年1月7日 朝刊 社会面>