「学校に対して色覚障害の息子に必要な配慮をお願いするときに、先生方に渡す資料が欲しい」というお母さん達の声を受けて、このページを設けました。このページを印刷して御使用ください。原本は平成元年に文部省が発行した「色覚問題に関する指導の手引き」です。カラー写真入り30ページのすばらしい冊子で、たくさんの挿し絵が入っています。しかしながら、このページのアクセスビリティ−を考え、図版は本文に関係のあるものだけ単純にスキャンし、解像度も落として掲載してあります。
謝辞:テキストファイルおよびPDFファイルを作成していただきました伊賀公一さん、原本を御貸し頂いた内山紀子さん、ありがとうございました。平成6年増刷版に関しては、井上清三さん、伊藤善規さん、田中陽介さんの御協力をいただきました。ありがとうございました。
目 次
・ はじめに
I. 指導の基本
II. 学習指導の在り方
III. 生徒指導の在り方
1. 色覚異常児童生徒に対する指導
2. 安全に関する指導
3. 教室環境の構成
IV. 進路指導の在り方
1. 色覚異常と職業適正
2. 特性を行かす進路指導
3. 進路に関する資料と情報
4. 就職希望先についての相談
5. 進学先、就職先での適応
資料編
1. 色覚とは
2. 色覚異常とは-その発現の仕組み
3. 色覚異常の分類
4. 色覚異常の遺伝について
5. 色覚異常者の色彩感覚
6. 色覚異常者に見分けやすい配色
7. 色覚検査とその手順
8. 色覚異常と自己管理
1. 検査の目的と対象
2. 検査表
3. 検査方法と実施上の留意事項
4. 保護者への連絡と指導
5. 当該児童生徒への指導
・ 関連法令
はじめに
昭和63年度学校保健統計調査により推計すると、小・中・高等学校において約40万人の児童生徒が色覚異常であると考えられます。
一般的には色覚異常であっても、ほとんどの場合、日常生活に不自由を感じることはないといわれています。しかし、色覚異常の児童生徒の中には、学業生活のある場面で色の識別に困難を感じたり、将来の進路選択の面で不安を覚えたりする者もいると思われます。また、色覚異常者の色彩感覚について「色がまったく見えない」とか「赤と緑が逆に見える」などと誤解をしている者もあるといわれます。
そこで、まず教師が色覚異常について正しい知識をもち、色覚異常の児童生徒の実態を的確に把握し、学習指導や生徒指導、進路指導等において、適切な指導を行うことが必要となります。
このため、文部省において、学校における教師の指導の参考となる手引書を刊行することとしました。この手引書は、学習指導や生徒指導、進路指導の各領域において教師が留意すべき事項を中心に構成し、更に、資科として色覚異常に関する基礎知識、学校における色覚検査と事後の扱いを掲載しました。各学校においては、本書を部分的にではなく、全体を通してお読みいただき、全教職員が色覚異常についての認識を深め、共通理解を図った上で、色覚異常の児童生徒に対し、適切に対応されるよう期待します。
なお、本書の編集に当たって終始熱心にご協力いただいた色覚問題に関する調査研究協力者各位並びに貴重な意見や資科を提供してくださった関係各位に深く感謝の意を表します。
I. 指導の基本
児童生徒にとって、学校は学習の場であり、豊かな人間性を培うところです。そして、そのあらゆる活動を通して、知・徳・体の充実を図り、人間としての望ましい在り方生き方を追究し、将来の夢を育む生活の場とするところです。そのためには、一人一人の児童生徒が生き生きと明るく日々の活動を展開することができるようにしていく必要があります。
児童生徒は表面に現れなくても、学業や進路、自分の性格、対人関係、健康のことなど、何らかの悩みや問題を抱えているはずです。しかし、ことに色覚異常などのように自分の身体上のことになると、表面に出したがらないものです。そこで、教師には健康診断の結果や日常の生活の観察、相談等を手掛りにしながら、適切な対応をしていくことが求められます。
色覚異常者は、資料編に述べるとおり色を感ずる仕組みが正常者と異なり、明るさや鮮やかさが変わると正常者と違った色の見え方をするという特質をもっていますが、それなりに色はわかっています。その上、色覚異常の程度は一人一人異なり、日常生活にはほとんど支障のない者が大部分であるといわれます。このことを前提にして指導に当たる必要があります。すなわち、当該児童生徒を特別視することのない姿勢を保つことが必要となります。
大切なのは、児童生徒をよく観察し、必要と考えられる場合に相談等適切な対応をすることです。教師のさりげなく温かい配慮こそ求められるものであり、少なくとも教師の不用意な対応で、当該児童生徒を傷つけることがあってはなりません。
色覚に異常のあることも、その児童生徒の個性とも考えられるという立場に立ち、当該児童生徒に対する指導も、その他の児童生徒に対する指導の在り方と同様であることを基本として進める必要があります。
要は、一人一人が個性をもったかけがえのない児童生徒であるという人間尊重の考えに立って指導に当たることが大切です。
II. 学習指導の在り方
学習指導において色覚が問題となる場面は、黒板の利用、教科書や掛け図、絵の具類の扱い、OHP等の教材教具の活用、実験・実習等において色判断を必要とする場合等が考えられます。しかし、学習効果を高める観点からすれば、色をまったく使用しないことは考えられません。したがって、色覚異常児童生徒にも識別しやすい配色で構成するなど、工夫が必要です。要は、学習の計画から評価に至るまで、教師のさりげなく温かい配慮が必要です。
以上を基本にして、次に学習指導の場面において留意すべき事柄について、幾つかの具体例を示すことにします。なお、色覚異常といっても、その程度は千差万別で、示された具体的事例は、必ずしも色覚異常児童生徒のすべてに当てはまるものではありません。児童生徒の色誤認の状態を勘案して適切な指導に当たってください。
<板書>
板書するに当たっては次のような点に留意するとよいでしょう。
(1) 緑色黒板上に赤や青色のチョークを使用すると見にくいので、主に白や黄色を用いる。
(2) 重要性を強調するためあえて赤チョークなどを使用する場合、別な色でアンダーラインや囲みをつけるようにする。
(3) 色チョークを使用する場合、色名をはっきり告げるようにする。
(4) 文字、図、絵等はできるかぎり大きくはっきりと書く。
(5) 図を描いて、色分けをする場合には、文字や記号を併記するとよい。また境界線等は白チョークを用いて区別をはっきりさせる方法等を工夫することが大切である。
(6) 黒板の表面にチョークの粉が残って他の色と混じることのないよう、常にきれいにしておく。
<地図等>
授業では地図やグラフをはじめ多色の図表を使用する機会が多くありますが、その際色覚異常児童生徒にとって識別の手助けとなるような方法を工夫する必要があります。特に地図の場合は、緑色や茶色の系統の色がよく使われているので、例えば読図に当たっては、平野は緑色であり、山は茶色、海は青色であること、更に高度・深度により濃淡があることなど、色分けを言葉の併用で説明することが望まれます。また、掛け図等を併用し、位置を示しながら確認することも大切です。
なお、最近の教科書の中の地図やグラフ等は、色分けについてかなりの改善がなされていますから、図表を自作する場合には、参考にするとよいでしょう。
●グラフの作成
我が国のエネルギー供給構成(1986年)
※上は識別しやすい配色で、かつ境界線がはっきりしている好ましい例であり、下は好ましくない例
<OHP、掲示物>
OHPを使用したり、掲示物(自模造紙)を作成したりする場合、文字、線等は主に黒や青を用います。グラフ等で色を用いる場合、文字、記号等を併記するとともに、境界をはっきりさせます。また、識別しやすい色を並べる配慮が必要です。なお、二枚以上のTPを重ねて使用する場合には、色が重なることがありますので、特に注意が必要です。色模造紙等の使用に当たっては、文字の色等に気をつけたいものです。
く採点、添削>
作文やレポート等の添削に際し、赤ペンや赤ボールペンがよく使用されますが、線が細いため黒文字に囲まれ見にくいといわれます。答案の採点も同様のことが言えます。できれば色鉛筆等の太字の赤を使うとよいでしょう。
<実験・実習>
実験・実習の指導に当たっては、色の違いのみならず、形、大きさ、手触り、模様、明暗など、他の要素を加えて判断し、表現するように工夫する必要があります。また、表現においては、色に文字・記号を書き加えたり、境界部分に線を入れたり、紛らわしい色を使わないなどの配慮をすることが大切です。
【化学反応】
水溶液の性質を調べるために、リトマス紙、ブロムチモールブルー(BTB)水溶液、赤キャベツ液などの指示薬を用いて、色変化の識別がよく行われます。このほか、中学校以上では物質の化学反応による変化の様子なども色つきの絵や写真などによって表すことがしばしばあります。これらの判別においては、色の変化の程度が判断できるよう、表現の工夫が必要です。
【観察・表現】
花の観察をさせる場合、色覚異常者の中のある者にとっては濃い緑の葉に紛れて赤い花が見えにくいことがあります。また理科の学習では、植物の成長に伴う変化や季節による変化、または種類の違い等を識別するため、花や葉などの色の違いを話し合ったり、スケッチしたものに色を付けたりすることがあります。このような場合、花の位置と色を具体的に示すことが大切です。
また、果実などからしぼり出した汁を水に混ぜ、色水にしてその違いを見たり、でんぷんのヨウ素反応を調べたりすることもあります。更に、空気や水、地面の温度の測定値などをグラフに表したり、雲や風の動きや気圧の変化、地層・地形や地殻変動等を図に表したりするのに、色を用いて表現することもあります。このような場合、色以外の要素を加えて判断、表現させる工夫が必要です。
【回路配線】
強電・弱電を問わず、回路の配線は色別になっており、色覚異常の程度によっては識別しにくいようです。そこで、可能な限り区別の容易な色を使用するとともに、必要に応じて文字・記号による説明を加えるような配慮が必要です。また、汚れによる変色のない材料を使うようにします。なお、生徒に作業のためのペアを組ませ、十分な時間を保障するとともに、明るい場所で作業を行うようにします。
<造形的な表現活動などの指導>
指導計画の作成に当たって、絵の表現活動に偏ることなく、工作的な活動など広く他の表現活動も十分経験できるようにすることが大切です。このことは、色の使用について負担を感じがちな色覚異常児童生徒が、絵の表現に指導が偏ることによって、表現活動に興味をなくしてしまうことのないようにする上でも特に必要なことです。
また、絵の表現についても、色の影響の少ない素描をさせるなどの配慮をして、表現活動の楽しさを味わわせたいものです。
造形的な表現活動においては、児童生徒一人一人が、対象を見て感じたことや思ったことなどをもとに、想像力を働かせて創造的に表現することを楽しむようにし、その能力を高めるようにします。
そこでは、個々の見方や感じ方が大事にされる必要があり、色覚異常児童生徒も自分の見え方や感じ方で表現活動を行っているので、たとえ、色合いなどに他の児童生徒との違いが見られても、それは、その児童生徒なりに自分の特性を生かしているということができます。
したがって、中学校・高等学校における教科又は科目の選択に当たって、本人が美術を希望する場合、色覚異常を理由に拒むようなことがあってはなりません。
<各教科・科目の評価・評定>
評価・評定は、指導過程全体にわたって行うようにし、児童生徒の学習意欲を高めるように配慮する必要があります。
特に、図画工作科や美術科の造形的な表現活動においては、改善されているとはいえ、まだ活動の結果としての作品のみが評価の対象となりがちです。そのことが、色覚異常の児童生徒に必要以上の負担をかけることになっているようです。
したがって、主題の良さや構想の良さなど表現したかったことや、造形表現への取り組みの態度を含め総合的に評価し、個々のそのような努力などに対して称賛や励ましの言葉をかけるように配慮することが大切です。
また、色覚異常の程度によっては、黄色や青色系統の色にまとめられるなど他の児童生徒とはっきり異なる色合いの表現をする場合がありますが、それは自分の見え方、感じ方で表現をしているのであり、むしろ特性であるととらえ、励ましていくようにすることが大切です。なお、指導の過程で普通の色との違いや、用いている色名を教えることも、時によっては必要でしょう。
その他の教科・科目においても、図画工作・美術科と同様に総合的な観点から評価することが大切です。
<危険防止と安全管理>
すべての児童生徒にとって安全で、しかも慎重かつ効率良い授業展開こそが適切な教育的配慮といえます。
このことから留意事項を幾つかあげてみます。なお、これらの例は、色覚異常の有無にかかわらず指導上大切なことです。
【薬品の扱い】
化学実験を実施するに当たっては、「実験をていねいに」「実験態度を厳格に」「薬品の扱いをきまりに従って行う」などの点に十分注意した指導が大切です。例えば、ラベルの色のみで薬品を判断するのではなく、必ず名称をみて確認の上、作業する習慣が必要です。
【電気実験】
配線・結線を誤ると事故につながる可能性があります。このような実験の場合、事前チェックを教師の立ち会いのもとで実施するとともに、配線終了後、教師による再チェックが必要です。
【ユニフォーム】
バスケットボール等、敵・味方の入り混じるゲームを行う場合、衝突などの事故防止の意味もあって、色別の鉢巻、たすき、ユニフォーム等を着用しますが、識別しやすい色や模様を使用するとともに、清潔にし、汚れによる識別不能を招かないようにします。
<遺伝に関する授業>
伴性遺伝(P18参照)を学習内容として扱う場合、ショウジョウバエの例によって説明するケースが多く見られますが、ひとの色覚に関する内容も学習の対象となるでしょう。
授業に当たっては、生徒の中に色覚異常者がいるかどうか事前に再確認しておき、不用意な言葉により当該生徒を傷つけることのないよう細心の注意を払うことが必要です。
また、これまでも述べたとおり、学校生活や日常生活に支障をきたすような強度異常の者はごくわずかで、ほとんどの者は支障がないことを説明することで、不安を抱かせないようにします。
III. 生徒指導の在り方
生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよい発達を目指すとともに、学校生活を有意義に、充実したものにすることを目標としています。色覚異常児童生徒の指導に当たっても、これを基本に進めていくことになります。
1. 色覚異常児童生徒に対する指導
(1) 観察と理解
色覚異常児童生徒を把握するためには、一人一人の色覚の状態、すなわち、どのような場合にどのような支障があるのかを、観察その他を通して知ることが必要です。
観察に際しては、児童生徒との日常の接触の中で自然に行うようにします。なお、複数の教師がそれぞれの立場によって観察する場合、その観点を異にすることが多いので、それぞれの観点を明確にし、相互に理解し、継続的に視察を深める必要があります。
(2) 学級・ホームルームの雰囲気
色覚異常児童生徒が、誤解や無理解のため他の児童生徒から特別視されたり、差別されたりすることなく、毎日の学校生活を安定した気持ちで過ごすことができるようにしたいものです。また、学校における様々な活動の中で、当該児童生徒が積極的に役割を果たし、集団への参加意識や、存在感を感じることのできるような学級・ホームルームを作ることが望まれます。
そのためにも、教師と児童生徒及び児童生徒相互の問に、互いに認め合い、なんでも相談のできるような学級・ホームルームの雰囲気を醸成しておくことが大切です。このような人間関係が存在することにより、教師との日常の温かい接触が容易になり、教師が当該児童生徒のよき理解者となることができるでしょう。仮にいじめなどの事態が生じた場合には、教師として毅然とした態度をとることが必要です。
なお、だれが色覚異常であるかを他の児童生徒に知らせることは避けるべきです。
また、発達段階に応じ、保健体育、理科や特別活動等の場を利用するなどして、色覚異常についての理解を図ることも大切です。
(3) 相談
校内体制としては、学級・ホームルーム担任や養護教諭等が窓口となって、本人の悩みや心配事について相談できるようにしたいものです。その際、様々な不安感を取り除くとともに、情緒の安定を図るように指導していきます。さらに、個性伸長の観点に立ち、児童生徒が自分の生活や進路に自信をもって前向きに考えることのできるようにすることも大切なことです。なお、必要に応じ学校医と連絡をとり、相談ができるような態勢を整えておくことも必要でしょう。
(4) 保護者との連携
色覚異常児童生徒の保護者は、その子供がどのように育っていくか、また、将来どのような困難を担うことになるのかを考えて当惑し、苦悩する傾向にあります。低学年の場合、本人より、むしろ保護者の方が心配し、そのことが本人に不必要な不安を起こさせることが多いのです。保護者の悩みの中には、他人には言えない心の悩みもあります。色覚異常については、「そっとしておいて」と願う保護者が多いのです。
秘密の保持について安心させることにより、保護者と教師との信頼関係が成立することになります。保護者との話し合いを通じて、保護者の悩みや不安を取り去ることが、児童生徒にも良い結果をもたらすことになるでしょう。
(5) 医師への相談
色覚異常児童生徒の保護者から問題や疑問が持ち込まれた場合、学校側は誠意をもって対応することは当然ですが、医師に相談するよう指導します。その際、本人と保護者が同伴で相談を受けるようにするとともに、できれば教師も同行するとよいでしょう。
医師は、色覚異常の診断と程度の判定をします。その結果についての十分な説明を受け、日常生活上の配慮などについても具体的な示唆を与えてもらい、保護者や本人から不安や疑問を取り除くことが大切です。
2. 安全に関する指導
(1) 校内における安全
すべての児童生徒が安全で楽しい学校生活が送れるよう配慮することは当然のことです。
教室内はもとより、廊下、階段、昇降口、遊具等での安全のため、整理整頓に努めるとともに、色覚異常児童生徒にも見やすい表示等に気を付ける必要があります。
(2) 交通安全指導
色覚異常者が信号機の色を間違えることはまずありません。しかし、夜間の信号機の赤と黄が遠方からだとわかりにくいとか、道路照明の水銀灯の青白い光と青信号が紛らわしく感じる場合があるようです。
そこで、自転車等に乗る場合、特に夜間や雨天時においては、信号の見落としがないようにスピードを落とすなどして、気を付けて乗ることが大切です。このことは正常者にもいえることで、学校における教育活動全体を通して機会あることに十分指導するようにします。
色覚異常児童生徒については、個別に話し合う機会を作り、「今までに自転車等に乗っていて困ったことはなかったか」「危険な場面に遭遇したことはなかったか」等、日常生活の中で経験したことを聞き、適切な指導をするようにします。
なお、信号機の各色の並び方は法令により決まっているので、それを交通安全指導の際に指導することは意義のあることです。
3. 教室環境の構成
教室は、児童生徒が学校生活の大半の時間を過ごす場であって、その環境は児童生徒に無言の影響力をもっています。教室の掲示板や壁面には、時間割や学級組織表、学級新聞など多くの掲示物があります。そこで特に小学校にあっては、色覚異常児童にも見やすい配色の掲示板を設置するとともに、学級・ホームルームの目標、掲示板の文字、作品の批評カード等、児童全員にわかりやすくするなど、適切な環境づくりを工夫したいものです。
また、黒板は常によく拭いてきれいにしておくとともに、宿題や所持品等の連絡及び学習事項の再確認等は、白色か黄色のチョークで書く約束をしておくこともよいでしょう。
その他、黒板に書かれた文字や図、教科書や地図帳等の図表等を見る場合、教室内が暗いと、色覚異常の有無にかかわらず見にくいものです。適度な明るさを保つとともに、照明器具は常にきれいに保ちたいものです。
IV. 進路指導の在り方
色覚異常の有無にかかわらず、進路指導の基本はすべての児童生徒に共通です。すなわち個性を生かし、自己の能力・適性等を正しく理解することにより自分に適した進路の選択決定ができるようにするとともに、児童生徒自身が将来への生き方や進路の設計を明確に描くことができるようにすることです。
1. 色覚異常と職業適性
色覚異常と職業適性との関係は、いちがいにはいえません。色を取り扱う職業といっても多種多様なものがあり、色覚異常にもかなりの個人差があります。また、これ以外の他の要因とも複雑に重なっていて、職業との関係が明瞭につかみにくく、一つ一つの職業について適性・不適性を明確にするのは困難な状況にあるといえます。
2. 特性を生かす進路指導
高校・大学等への進学に関し色覚異常生徒に対する入学の制限は、大幅な緩和ないし撤廃の方向に進んでいますが、学校を卒業した後の就職にかかわっては、まだ問題が残されています。学校における進路指導に当たってはこのような状況も踏まえて、入学案内の注意事項や求人票の採用条件等の記載事項をはじめとして、適切な資料や情報を収集・活用し、児童生徒の特性を生かした進路指導に努める必要があります。
(1) 能力・適性等の理解
色覚異常児童生徒自身はもとより、保護者も我が子の将来の進路について不安や悩みをもつています。そこで、進学や雇用上の制限は一部であり、進路選択に大きな支障を及ぼすものではないことを知らせるなど、具体的な事例を示し、前向きに自己の能力・適性等の理解に努めるよう指導する必要があります。このため、職業適性検査をはじめ、各種の資料を活用させ、生徒自身に自己分析をさせるようにすることを忘れてはなりません。
(2) 自己啓発的な体験
進学、就職に関する情報と関連させながら、進路に対する視野を拡大させるため、学校内における諸活動を意識的に自己啓発的な体験の場としたり、上級学校の見学、体験入学、職場見学、地域社会の行事への参加等、校外における勤労体験的な学習の場を設定して、自己啓発的な体験を多く得させることが大切です。このような活動を通じて、自分自身の適性を発見していくことになります。
(3) 保護者・関係機関との連携
保護者が、不正確な進路情報による判断に基づいて、不安やあきらめからの進路選択をすれば、当該児童生徒にはただ劣等感や挫折感のみを抱かせてしまうおそれがあります。
そこで、保護者に対して正確な進路情報を提供し、個性や能力の伸長に関することをはじめ、将来の進学や就職に関すること、希望や悩みに関することなどについて適宜、相談を行い、保護者と生徒の進路に間する意思の統一を図りながら、適切な進路選択ができるようにしたいものです。
なお、公共職業安定所等の外部機関や医師との連携を密にし、それぞれの立場からの意見を適切に取り入れることも大切です。
3. 進路に関する資料と情報
例えば、「色覚異常者は自動車運転の免許が取得できない」「色彩に関連する企業や職種はすべて不適」などと思い込んでいる生徒もいます。そこで、色覚異常児童生徒に対する就職指導に際し、例えば現代社会における職種は多岐にわたっていること、科学技術の進歩により、人間の感覚に頼っていたものが機器の使用による測定に転換されたものもあることなどに留意して、正確な資料に基づいた情報を提供し、職業選択に役立てるようにすることが大切です。
進学指導に際し、例えば入学試験のための学力面の受験情報のみでなく、高等学校、大学等の特色や内容、将来の職業と色覚との関係等の資料の整備・充実に努める必要があります。
コラム <入学制限の緩和>
これまで色覚異常生徒の進学については、(1)色の識別を必要とする実験・実習等の学習指導において支障がある、(2)就職等卒業後の進路面で制限があることなどを主な理由として、多く制限措置が取られてきた。しかし、(1)の点については、今日の教育方法の改善の状況等を勘案すると、多くの場合、学習指導上の配慮で対応できるものと考えられること、また、(2)の点については、必ずしもすべての企業・職種が色覚異常者について雇用上の制限を行っているわけではないこと、更に大学入学者選抜の上でも改善が図られつつあること、あるいは専門教育を主とする学科を卒業した後の進路が多様化していることなど勘案すると、進路指導上の配慮などで対応できると考えられることから、近年、色覚異常生徒に対する進学制限が大幅に緩和ないし撤廃される方向にある。
コラム <色覚異常と資格取得>
各種の国家試験、検定試験等の受験資格においては、一部を除いて色覚異常の有無を問うていないのが一般的である。運転免許取得を例に説明する。
道路交通法によれば、「自動車等の運転に必要な適性についての免許試験(以下、適性試験という)」を行うものとし、その中に「色彩織別能力」が一項目として規定されており、その合格基準は「赤色、青色及び黄色の識別ができること」となっている。運転免許センターでは色彩識別能力の適性試験の際、スクリーニングで石原式等の色覚検査表が使われるが、これで色覚異常が検出された場合であっても、最終的な適性試験の判定は信号機を使い、赤色、青色及び黄色の識別ができればよいことになっている。したがって、仮に色覚に異常があったとしても、運転免許の取得は可能で、過去、この「色彩識別能力」が原因で不合格となった例はほとんどない。
4. 就職希望先についての相談
上級学校への進学に当たっては、将来の職業希望を意識して学校を選択することは当然のことです。この場合、進学先での学習への支障の有無、また卒業後の進路選択に当たって、希望職種について就職の道が開けているかどうかなどについて、個別に相談する必要があります。
一方、企業における色覚異常者の採否方針をみると、安全面からの制限、微妙な色彩の調整や判別からの制限等、様々です。しかし、同一企業であっても多くの職種があり、特性を生かすところがあるはずですし、従来不適当と考えられていた職業の中にも、適職があるはずです。色覚異常の程度も個人により差があることから、医師の診断や学校における観察等をもとに直接企業に相談すべきです。できれば色覚異常者は積極的に実際の仕事を体験したりして、自己の希望職種を判断することが望ましいと考えられます。
コラム <企業等との相談の例>
1.求人条件に「色覚異常不可」とする鉄道会社に、色覚異常のある生徒が強く希望したため、とりあえず会社を見学に行かせたところ、生徒の熱意にうたれ、会社側では業務に支障のない職場を考慮してくれて入社することができた。
2.採用条件に「色覚異常不可」とある企業を色覚異常生徒が希望したため、医師の診断を受け、診断書を添えて企業に問い合わせ、話し合いを行った。
その結果、体験入社を実施し、業務に差し支えないという会社側の判断がなされて採用された。
5. 進学先、就職先での適応
進学先、就職先で不適応を起こす原因には、本人の生活上の問題、健康・体力、人間関係等いろいろ考えられます。しかし時には、色覚異常に原因がある場合もあります。その場合、進学した生徒に対しては、上級学校との連携をとりつつ、本人との相談活動を行うとともに、不適応を起こしている原因が例えば教科指導や実験実習等の取扱い上にあれば、それらに対する指導上の配慮の要請等、必要な措置を講じ、本人との相談活動を行い、十分注意して更に努力するよう励ますことが大切です。また、就職した生徒に対しては、不適応を起こしている原因が仕事の内容のことであれば、事情の許す限り、配置転換、作業内容の改善等を依頼し、その解消を図るように努めることも必要です。
いずれにしても、不適応が生じた場合、母校の教師や進学先の学校の教師あるいは職場の上司等に積極的に相談するような指導をしておく必要があります。なお、色覚異常者自身が「自分の色覚異常にどう対処していくか」を考える姿勢が大切であることは言うまでもありません。
資料編
色覚異常に関する基礎知識
太陽の光をプリズムに通すと赤、黄、緑、青をはじめ沢山の色が見えます。光に色を感じるのは、ひとの網膜に特定の電磁波(光)に興奮する視物質があるからです。ひとの眼には光の電磁波に反応する3種類の視物質があり、それぞれの視物質が電磁波に刺激されると、ひとは固有の色を感じるのです。これが色覚です。
ひとが経験する色はすべて、赤・緑・青の互いに独立した3つの基本色を混合して再現することができます。眼の網膜にも光の3原色に対応する3種類の視物質があることが確かめられており、私たちが知覚するすべての色はこの3種類の視物質の興奮から作られる感覚なのです。
●光の3原色
※3つの基本色とは、どの2つの色を混ぜても残りの色にならない特定の3種類の色をいう。(なお、これは暗所における投光により得られる混色図)
ひとの網膜には、赤・緑・青の3種類の視物質があり、それぞれの視物質が一定の比率で興奮することによって色の原刺激が起こり、複雑な神経機構の処理を経て大脳が色を知覚するのです。このような、色覚の基本となるしくみを仮に赤機構、緑機構、青機構と呼ぶことにすると、赤機構か緑機構の何れか一方に異常があるのが「赤緑色覚異常」です。特徴を一言でいえば、色相環の赤〜黄〜緑の範囲の色を混同し、赤機構に異常のある場合にはこれに赤の感度低下を伴います。ほかに青機構に異常のある「青黄色覚異常」がありますが、極めてまれで遺伝形式の違う特殊な色覚異常ですのでここでは説明を省くことにします。
いわゆる赤緑色覚異常とは、先天性、遺伝性のものをいいます。基本的な色覚機構は生涯変わりませんが、色の判断能力は経験の積み重ねとともに変わります。
●マンセル24色相環
赤機構を欠くものを「第一色盲」、緑機構を欠くものを「第二色盲」といいます。単に色盲という言葉は通俗語でかつ誤解を招く言葉ですから学術用語としては使いません。
第一色盲者と第二色盲者は、赤も橙も緑も、条件によって黄と同じように見えるというように、色を感じる仕組みが単純になっています。
●スペクトル
※スペクトルの色の見え方は、正常者で、少なくとも6色、第一色盲者や第二色盲者は、異常の程度によっては6色に見えない場合があるといわれています。
また、赤機構は存在するが異常であるものを「第一色弱」、緑機構は存在するが異常であるものを「第二色弱」といいます。単に色弱という言葉も学術用語としては使いません。
赤と緑を混色すると黄色になりますが、第一色弱者と第二色弱者は、赤と緑を混色して黄色を作る場合、正常者とは混色の度合いが違い、その分、色判断があいまいになっています。
色覚異常にはこのように第一と第二という言葉が使われています。第一と第二の基本的な違いは、第一異常者(第一色盲や第一色弱)は正常者に比べ赤い色を暗く感じる、いいかえると赤の感度が良くないのです。赤、黄、緑の色判断が正常者と異なる点では、第一異常も第二異常(第二色盲や第二色弱)もよく似ています。第二異常者では、色それぞれの明るさ感覚は正常者と変わりません。
単に、色弱とか色盲という言葉は前述のとおり通俗語で、色彩識別能力の異常の程度は正しくは「弱度異常」「強度異常」として区別します。その中間を「中等度異常」ということもあります。なお、弱度異常には正常者と変わらないくらいの軽い異常が含まれています。本書では赤緑色覚異常の分類を次の表のように表現することにします。
●先天性赤緑色覚異常の分類表
日本人では男子のおよそ5%、女子のおよそ0.2%に赤緑色覚異常が見られます。また第一異常と第二異常の比は約1:3です。これらはともに伴性遺伝ですが、性染色体上で遺伝子のある場所が違っています。第一異常と第二異常をまとめて赤緑色覚異常として、遺伝の共通型式を図で示します。
●赤緑色覚異常の遺伝形式
※異常遺伝子を持っているが色覚には異常のない女子を保因者という。保因者の割合は女性のおよそ10%である。色覚異常者の母親か色覚異常であることはまれで、ほとんどが保因者である。
※ここに示した型式にあてはまらない場合には、医師に相談する必要がある。
(脚注)
伴性遺伝…性染色体上にある遺伝子は、その遺伝子による遺伝形質と性が相伴っているため、このような遺伝を伴性遺伝という。
性染色体…人間の体細胞の染色体は男女とも46本であるが、このうち2本は性を決定する染色体であり、これを性染色体という。
通俗語として色盲という言葉があります。この言葉からひとは、色覚異常者は色がわからないのだと思い込みがちですが、これは大変な間違いで、本人なりに色はわかっています。そして、その多くは日常の生活においてほとんど支障を感じていません。ただ、色覚に異常があると、明るさや鮮やかさが変わるにつれて、色が違って見えてくる傾向があります。
色覚異常者は色の観察条件、具体的には観察するものの色の大きさや色の鮮やかさ、照明環境、ゆっくり観察するか、瞬時に見るかの時間的条件などによって、見え方の違いがきわだってくることがあります。しかし、成長し、色についての経験の積み重ねによってその色覚はかなり修正されることが多いのです。
色の判断にどう対応しているかの能力を整理すると次の3点になります。
(1) 色の認知能力:色が何色かを認知する能力のことで、2色間色彩識別能力もここに入る。
(2) 色再現の能力:塗り絵やカラーテレビの色調節などに用いられる能力のこと。
(3) 色探索能力:信号灯の認知、椿の緑の中に花や小鳥を見い出したり、赤い星や青い星を探し出すことに用いられる能力のこと。
児童生徒に色誤認が疑われたら、その内容を医師の診断結果とつき合わせて注意深く記録し、教育上の適切な指導に役立てるようにしましょう。
色覚異常者の色識別体験例から、色をどのように見ているか、経験の積み重ねに伴って色の見分け方がどう変わっていくのかを考えてみましょう。
色覚異常の子やその親から、色の間違いの経験として、椿の花が濃い緑の葉に紛れて見えにくいことがあるという話を聞きます。この場合、一つ一つの花の色が見えないわけではなく、見たときの全体的な赤の印象がおそらく弱かったものと思われます。また、絵画で縁の葉を茶色に塗ったという話を聞くことがあります。これらは赤〜黄〜緑の間の色を相互に混同しているためです。
このような色混同は、色を比べるときの条件によって、起こりやすかったり起こらなかったりし、注意深く見るかどうかでも違ってきます。
色混同の傾向は第一異常と第二異常でよく似ていますが、第二異常者の方が色混同の経験例が多いようです。第一異常と第二異常はその原因となる視物質が違うので、注意深く観察するとその現れ方には違いがあります。違いをそれぞれの体験例で紹介します。
(1) 第一異常者からは、赤い信号色を見落としたとか、デパートで赤いセーターを買うのが難しいということをよく間きます。赤機構に欠陥があり、赤色を暗く感じるためです。
(2) 第二異常者からは、「ひやむぎ」の色どりに入っている「緑色の麺」が見えなかったとか、運動部の合宿で、「使い古した緑の手拭」を沢山の汚れた白い手拭の中から見つけ出すのにひどく苦労したなどの話を聞きます。「緑色の麺」や「くすんで茶色がかった緑色の手拭」が第二異常者には灰色に見えて間違えたと考えられます。
このような色覚異常の本質は一生変わりませんが、色覚異常者は色を注意深く見る習慣を身に付けることによって、色の使い方に慣れ、経験が積み重ねられるにつれて正常とはいかないまでも色判断は可能になります。
また、色の使い方には色覚異常者の性格によって内向型と外向型の2通りがあるといわれています。絵画を例にして説明します。
内向型とは、色混同を人に気付かれないように、単調な画材を求める結果、描かれた絵は黄青系統の色にまとめられて単調な画面になるタイプです。これに対し外向型は、赤や黄の色を大きな面に色濃く描き、ぼかし色を嫌い、大胆かつ多彩な絵に仕上げます。ただよく見ると色の配合にバランスを欠いていたりします。
要は、色覚異常者も色の好みや使い方が成長とともに変化していくということです。しかし、色のバランスを欠いたように見える絵を見て、それを色覚異常者が描いた絵だと考えるのは早計です。
●色覚異常者が描いた絵
(D.Broschmannの付図から借用)
※上の2枚の絵は、同一人物が描いたものです。右の絵は、成長してから描いたもので、色感の欠陥を積極的に克服しようとする意志が働いています。
色覚異常者に見分けやすい配色を作るには次のような条件が大切です。
*青緑色を境にして、赤色側と青色側の色を組み合わせる(P17のスペクトル図参照)
*赤色側同士あるいは青色側同士を組み合わせるときは、組み合わせる色同士の間にはっきりとした彩度差か明度差をつける。
*彩度や明度の低い色同士の組み合わせは避ける。
*色と色の境界を線引きするなど、色以外の情報を与える。
●色覚異常者に見分けやすい配色と見分けにくい配色の例
色覚異常者にも見分けやすい配色の例
正常者に見分けやすく色覚異常者に見分けにくい配色の例
※見分けにくい配色例でも、明度差をつけたり、境界線をはっきりさせたりすることにより見分けやすくなる。
先天性色覚異常の疑いのある者を見いだし、更に詳しく診断し、必要に応じて程度判断をするのが“色覚検査”です。
【異常の疑いの検出】
一般には、異常を見落とすことが少なく、正常を異常と見誤ることが少ない検査法が良い検査法とされます。
色覚異常の疑いの検出において多く用いられている石原式検査表を例にして説明します。
これは、色覚異常者に固有な色合わせの仕組みを巧みに利用し、似たもの同士の色で描いた図柄を読ませて色覚異常の疑いのある者を検出する表です。
黄緑の図柄を橙と黄を混ぜた地色の上に描くと、橙と黄緑は色覚異常者には互いによく似た色に見え、正常者にははっきり違った配色となります。このため、正常者には見やすい図柄が、異常者には全く判別できないものが出てきます。このように色覚異常者によく似た色に見える色同士を組み合わせて作ったものが色盲表で、色覚異常者にだけ同色に見える特徴を利用するので、仮性同色表ともいわれています。なお、石原表にはいろいろ種類があり、学校保健でよく使われているのが「学校用色覚異常検査表」です。
色覚検査表はこのように色覚異常者の色混同の特徴を利用したもので、異常の疑いのある者の検出には最も効率のよい方法です。しかし、何表読めたから軽い異常だとか、何表しか読めないから重い異常だなどという程度を判定するものではありません。また、一冊の検査表の全表を読ませて判定することが必要で、検査表の中の2〜3表を選んで結果を出すのは間違いです。
●石原表の一部
学校用色覚異常検査表第7表
【詳しい診断】
検査により見いだされた“異常の疑いのある者”の中には、正常者も含まれていることもあります。アノマロスコープなどによれば、異常の有無や異常の種類を診断することが可能です。
アノマロスコープ
【程度の判定】
色覚異常者がどの程度色を識別できるかは、色覚異常の種類からだけでは単純に判断できません。例えば、第二色弱の中には第二色盲と区別できないくらい強度のものから、正常者と同じくらい色のよくわかる者までが含まれます。
程度分類の本来の目的は、当面の職業や学校での授業等に必要な色識別能力があるかどうかを知ることですが、無数にある職業それぞれに適した検査をすることは理想であっても実行不可能です。現在のところ、全ての職業に共通な程度判定法はありません。しかしそれでは、未確定な将来の職業選択に困る場合も考えられるので、一応の目安になる尺度として大まかに強度、中等度、弱度に分ける方法が必要になります。それが程度判定法です。この目的で作られた検査表に、「石原・大熊氏新色覚異常検査表」や「東京医大式色覚検査表」などがあります。また色並べ法によるファーンズワース氏のパネルD−15検査器も強度と中等度以下を二分するのに有用な器具です。しかし、使われた検査器が異なれば判定結果は異なることもあるので、現状では大まかに強度と弱度に二分しておくのが無難です。いずれにせよ、医師から程度判定を受けた場合は、どの判定法によったかを明らかにしておくことが大切です。
パネルD−15検査器
色覚異常と自己管理の在り方については、経験・訓練効果の意義、進学・就職等の問題があります。
(1) 経験・訓練の意義
赤緑色覚異常は、遺伝性で、しかも染色体レベルの異常に由来するものですから、その発現の仕組みからも異常の内容からも、現時点では治療の対象になるものではありません。したがって大切なのは色覚異常に対する適切な生活の指導です。
一般に色の見え方や表現力は、色のほか、つやや立体感、物体を取り巻く色環境や経験によって左右されます。色覚異常者の色彩織別能力が正常者と異なっていることは事実ですが、色以外の諸条件に助けられて経験の積み重ねとともにその能力は向上するし、見える色を表現する能力も向上して、それなりに日常生活の上で対処できるようになります。治療のことで思い悩むより、診断を受けたあと、自分の色覚異常にうまく対処する方法を身につけることの方が大切です。
(2) 進学・就職の問題
*進学について
上級学校への進学に当たって、一般的には色覚異常は問題になりません。しかし、職業に関係する専門分野を選択する必要が起こった場合は、将来の職業との関連について指導教師等と相談することが必要です。
*職業の選択について
色覚異常者の職業選択に当たっては、一人一人について判断すべきものです。
なお、ごく一部には、色誤認も原因となって事故につながるおそれのある職業も考えられるので、医師に相談したり、十分な情報を収集するなどの努力をする必要があります。
学校における色覚検査は、学校保健法に基づく定期の健康珍断の一環として行われます。この検査は、色覚について「異常の疑い」の有無を明らかにするスクリー二ング検査であり、色覚異常の程度についての判定は行いません。
定期の健康診断で色覚検査を行う目的は、色覚異常の疑いのある児童生徒を見いだして、医師の診断を受けるように指示し、得られた診断結果をもとに、学校教育活動全般において適切な指導を行うことにあります。
色覚検査は現行の法令下では、下記学年の児童生徒を対象に行われます。
・小学校1年、4年
・中学校1年
・高等学校1年
・高等専門学校1年、4年
「色覚は、色覚異常検査表を用いて色覚異常の有無について検査する」ことになっています。
現在多くの学校では、「石原式」と呼ばれる学校用、幼児用の検査表が使用されています。この石原式検査表による色覚異常のスクリー二ングは確実で効率の良い方法です。しかし、この表は、ときに誤って正常者を「異常の疑いのある者」としてしまうこともある検査方法なので、この点にも留意して使用することが大切です。
検査を実施するに際しては、使用する検査表に記載されている個々の説明を熟読し、検査方法について十分理解して、次のような方法で行います。
【検査の方法】
(1) 検査は、室内で、できれば自然光の下で行う。直射日光下や、タングステン電球照明などの人工光線下では検査をしない。
(2) 検査は検査表の表面に十分な明るさを確保できる場所で実施する。
(3) 不必要な色の影響を違けるため、着色された壁のそばで検査を行わない。
(4) 検査表は机上に水平に開く。
(5) 被検者の自と検査表の面が、およそ75・の距離で、視線がほぼ垂直になるようにする。
(6) 検査表は全表読ませる必要がある。
(7) 検査表の1表の読み取り時間はおおむね3秒ぐらいとする。答え方(読み方)にとまどっている場合には、答えを催促したり聞き返したりせず、次表に進む。
(8) 答えた内容について訂正したり、念をおしたりしてはいけない。
(9) 検査表は目で読ませ、指でなぞらせてはいけない。
【検査とプライバシー】
(1) 色覚異常の疑いのある児童生徒が、他の者から特別視されないように配慮し、また当該児童生徒に嫌な思いや恥ずかしい思いをさせないよう、態度や言葉づかいに注意する必要がある。
(2) 児童生徒一人一人のプライバシーを守るため、個別検査が実施できるような会場を設営し、検査者や被験者の声が他の児童生徒に間こえない距離を確保する。
(3) 専用の検査会場が準備できないときは、カーテン・ついたてを利用するなどの工夫をする。
(4) 前の人の検査がすむまで外で待たせ、検査会場の中には一人ずつ入れる。
(5) 検査結果の記録を他の児童生徒に見られないようにする。
●検査会場略図
会場の中には前の人の検査がすむまで、入らない。1人ずつ入る。
【検査表の保管】
検査表は、光による変色を避けるため、使用時以外は暗所に置くなど、特にその保管に留意し、5年程度で更新することが望まれる。
なお色覚検査の実施前に、中学校については小学校、高等学校等については中学校から送付されてきた健康診断票に目を通して、生徒の実態を把握しておくことも必要です。
検査の結果は、児童生徒及び保護者に通知することになっています。
「色覚異常の疑いあり」という結果を家庭に通知する場合には、保護者の気持ちを考え、細心の注意を払って連絡を行う必要があります。その際、次のような方法が考えられます。
*家庭訪問や保護者面談の際、学級担任又は養護教諭が保護者に直接話す。
*学級担任又は養護教諭が電話で保護者に直接話す。
*保護者に封書で連絡する。
なお、いずれの場合にも、健康相談を受けるようにします。その際、資料を準備しておく必要があります。
また、相談に際しては個々の状況に対して柔軟に対処することを原則に、次のような諸点に配慮します。
(1) 医療機関において、精密な検査を受け、総合判定を受けるよう勧める。その際、本人・保護者ともども指導を受けるよう助言する。
(2) 医療機関の選択については、本人又は保護者の自主性に任せる。なお、その紹介について学校医に依頼するのもよい。いずれにしても、学校医の指導をいつでも受けられるような体制をとっておく。
「色覚異常の疑いあり」とされた児童生徒については、学校生活においてどのような支障があるか、家庭においてはどうか、教師と保護者それぞれが観察し、相互に連絡を取り合って、本人に知らせる方法等を相談する必要があります。なお、女子の場合は、本人及ぴ保護者の大きな動揺もありうるので、持に慎重に対応してください。
ところで、当該児童生徒は、「色覚の問題を表面に出したがらない」「色覚異常であることを知られるのを嫌がる」などの傾向をもっています。そこで、指導に当たっては、次のような点に留意する必要があります。
(1) 発達段階に応じ、科学的に正しい色覚異常についての知識を与える。
(2) 色覚問題にわずらわされることなく、当該児童生徒が将来に希望をもち、自己の個性・能力の伸長を図ることを目指すよう指導する。
(3) 当該児童生徒のプライバシーを尊重し、劣等感を与えないように配慮する。
●色覚検査の流れ
(平成6年12月8日現在)
学校保健法
第1条(目的)
この法律は、学校における保健管理及ぴ安全管理に関し必要な事項を定め、児童、生徒、学生及ぴ幼児並びに職員の健康の保持増進を図り、もって学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とする。
第6条(児童、生徒、学生及ぴ幼児の健康診断)
学校においては、毎学年定期に児童、生徒、学生(通信による教育を受ける学生を除く。)又は幼児の健康診断を行わなければならない。
第7条 学校においては、前条の健康診断の結果に基づき、疾病の予防措監を行い、又は治療を指示し、並びに運動及ぴ作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない。
第11条(健康相談)
学校においては、児童、生徒、学生又は幼児の健康に関し、健康相談を行うものとする。
学校保健法施行規則
第4条(検査の項目)
法第6条第1項の健康診断における検査の項目は、次のとおりとする。
四 視力、色覚及ぴ聴力
3 ……色覚の検査は、小学校の第4学年において行うものとする。
第5条(方法及び技術的基準)
5 ……色覚は、色覚異常検査表を用いて色覚異常の有無について検査する。
10 身体計測、視力、色覚及ぴ聴力の検査、……その他の予診的事項に属する検査は、学校医又は学校歯科医による診断の前に実施するものとし、学校医又は学校歯科医は、それらの検査の結果及び第8条の2の保健調査を活用して診断に当たるものとする。
第7条(事後措置)
学校においては、決策6条幕1項の健康診断を行ったときは、21日以内にその結果を児童、生徒又は幼児にあっては当該児童、生徒又は幼児及びその保護者に、……通知するとともに、次の名号に定める基準により、法7条の措置をとらなければならない。
一 疾病の予防措置を行うこと。
二 必要な医療を受けるよう指示すること。
三 必要な検査、予防接種等を受けるよう指示すること。
:
九 その他発育、健康状態等に応して適当な保健指導を行うこと。
第23条(学校医の職務執行の準則)
学校医の職務執行の準則は、次の名号に掲げるとおりとする。
五 法第11条の健康相談に従事すること。
(職名は平成元年3月31日現在)
市川 宏 名古屋大学名誉教授
江原 重克 千棄県市川市立東国分中学校長
岡安 正治 埼玉県蓮田市立蓮田南小学校長
小川嘉一郎 東京都教育委員会指導部長
小川 幸男 東京都立工芸高等学校長
金子 隆芳 筑波大学教授
岸田 博公 開業医(元日本眼科医会常任理事)
高柳 泰世 開業医(元日本眼科医会学校保健検討委員会委員長)
◎間宮 武 横浜国立大学名誉教授
山口 昭子 東京都立小平南高等学校養護教諭
◎主査
文部省編集担当者
森 正直 初等中等教育局高等学校課長
野角 計宏 初等中等教育局企画官
加茂川幸夫 初等中等教育局高等学校課長補佐
岩崎 永夫 初等中等教育局高等学校課専門員
遠藤禮一郎 初等中等教育局高等学校課