色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション
 
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第3回 すべての人に見やすくするためには、どのように配慮すればよいか

3.7 学会でのスライドや PowerPoint、ポスター、さらにホームページのデザイン

A:文字色と背景色の選定

学会のスライドやポスター、また研究室のホームページなどの作成においても、注意すべき点は論文の図版と基本的には同じである。1つだけ大きく違うのは、論文の図版が基本的には必ず白バックなのに対し、学会発表やホームページでは黒バックや青バックなど、背景色のうえに文字や図形を載せることが多い点である。このような場合、文字や図形の色が背景色と区別しにくい組み合わせになっていると、書いてあるもの自体が容易に視認できなくなる。

図形や文字の色と背景色を選ぶ際には、色相だけを変えるのではなく、明度を大きく違えるとよい。明るいバックに暗い文字か、暗いバックに明るい文字にする。明度の似通った赤と緑などを同時に使用すると区別がつかない。長波長の光を認識できない第1色盲の人は、暗い背景色における「濃い赤」の文字がまったく読めないことがあるので、暗い背景に赤い文字は避ける (連載第2回図6)。また色情報の載っている面積が小さいと、背景色との違いを区別しにくくなり、図形そのものが視認できなくなることがある。

いろいろな背景色と文字色の組み合わせと視認性に関しては、たなか氏の「カラーバリアフリー案内」のホームページ(http://sun.endless.ne.jp/users/tanafic/colorfiction/ank/ank_fr.htm)や、マイクロソフト社の「色覚に障害を持っていたとしたら、あなたのサイトは見えるでしょうか? 」のページ(http://www.microsoft.com/ japan/msdn/columns/hess/hess10092000.asp)が参考になる。

B:字の強調色の問題

明るいバックに黒の文字列の中で強調したい部分を「赤」文字で示すことは日常的に行われているが、3.6 節B で説明したように「濃い赤」(長波長の赤)を使用すると、第1色盲の人にとっては黒い字と区別できないことがある。この結果赤字は黒と認識され、強調されては見えない (連載第2回図6)。このような場合も、より短波長側の橙や朱色を用いると黒と識別しやすくなる。

また、冗長性を確保するため、強調したい文字は単に色を変更するだけではなく、字の大きさや書体 (フォント) を変えたり、文字を イタリックボールド にしたり、下線や傍点、囲み枠を併用するとさらに目立つようになる。

C:書体(フォント)の選定

線が細い明朝体や Times では色面積が小さいため、文字色を見分けるのが困難である。色分けをしたい文章では、線が太いゴシック体や Arial、Helvetica のボールド書体を使うとよい。

D:色を区別できなくても支障がない場面では、自由にカラフルな色を選んでよい

色盲の人に配慮するあまり、色数の限られた味気ないスライドやポスター、ホームページになってしまったのでは、せっかくカラーが使える機材を用いる意義が薄くなってしまう。例えばスライドの見出しと本文は、違う色であることが観客に認識できても認識できなくてもプレゼンテーションの効果に差はない。このように装飾効果だけが目的の場合には、むしろ自由に色を選んでよい。

また PowerPoint などの発表では、単調な白や青の背景に文字や図形だけカラフルな色を使った発表を見かけるが、むしろ淡いパステルカラーの背景に地味な色合いの文字や図形を組み合わせたほうが、視認性に影響することなく、カラフルな印象を与えることができる。

 

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細胞工学Vol.21 No.9 2002年9月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
・文章に関しては、秀潤社と著者に著作権がございます。

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